篠田真貴子氏いわく、「聞く」と「聴く」の違いは、何に関心を向けているか。相手が言った意見に対して、自分の判断を保留にできると「聴く」ことができると言います。職場のハラスメントに対して「聴く」がもたらす効果について語りました。
:ここで「きく」とは何かということをあらためて確認します。「きく」というのは、大きく2種類あるんですね。「with judgement=聞く」の聞き方は、ある人が「子どもの頃から英語を学ばせるべきですよね!」と意見を言った時に、聞き手が「そうですよね」あるいは「そうですかね」というように、自分の考えに照らして、半ば無意識に反応が頭の中であり、表情とか相槌に表れるものです。 一方、「without judgement=聴く」は、判断を留保すべき聴き方です。「子どもには小さい頃から英語を学ばせるべきですよね!」と言った時に、「そういうお考えなんですね。そう思った背景を教えてください」と、もしかすると子どもの英語教育に関してぜんぜん違う考えを持っているかもしれないけど、「なるほど」といっぺん受け取る。あるいはもうちょっと背景を理解したいと関心を向ける。こういう聴き方です。ただ、一生懸命に聞く時に我々が自然にやりやすいのは「with judgement」で、相当意識したり、そもそもこういう聴き方があると知らないとやれないのが「without judgement」です。『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』というおもしろい本があります。著者は組織心理学の第一任者のアダム・グラントという方です。 この本の中で「motivational interviewing(動機面談)」というものが紹介されています。この面談手法は、実は行動科学の分野で最も強いエビデンスに支えられた手法で、1,000を超える対照試験がなされていて、その論文の4分の3で統計的にこれは意味がある、人は変わるということを言っているんですね。インタビューではぜんぜん説得とかはしないで、普通にそのお母さんに「予防接種についてどうお考えですか?」と尋ねます。(お母さんが)「嫌です」とおっしゃると、どういう背景なのかとか、どんな思いなのかをただ聴いて、なるほどと。最後に「私は医師で、予防接種に関しては少しお母さんとは違う考えを持っているのですが、聴いてもらえますか?」と言って5分ぐらい話すんです。 そして最後に、「このように私の考えはお母さんとは少し違うんだけれども、お母さんが予防接種をどうするのか、どっちにお決めになってもそれはお子さんの幸せと健康を願ってのご判断だということがよくわかったので、尊重します」と言って、帰すんです。そうすると、かなり高い確率で予防接種を打たせに来るんです。これを別の角度で、何が起きているのかを説明してみます。これは安宅和人さんが「人が認知をする・知覚をするとはどういうことなのか」をモデル化したものです。私たちは感覚的にいっぱいインプットを受けているんですけど、自分の中で「この対象は大事」というのを受け取って、それをいろいろ組み合わせてつなぎ込んで認知が生まれて、そしてそれが判断や行動につながるということをおっしゃっているんですね。当然、過去のさまざまな体験はみんな違います。ですから、この真ん中のOSをかたち作る「価値観」も「信念」も「セルフイメージ」もみんな違うので、同じ状況においても気がつくことが違ったり反応が違ったりするわけです。ですから、ハラスメントを起こしてしまう方も過去の経験に基づいて、なんらかの意味を取ったからそういう行動を繰り返すわけだし、ハラスメントを受けた側の人は別の価値観の基でこれをぐるぐる回しているんですよね。 例えば同じ場所に行って、同じものを見たり経験しても感じ方とか意味が違ったりします。先ほどの安宅さんの説明にもありましたが、さまざまな強さの刺激を受けた時に、実際にそれについて意識にのぼらせて気がつくものと、意識にのぼらないものがあります。 例えば昨日、どこかお家以外で訪れた部屋を1個思い出していただきたいんです。壁紙はありましたか? ほとんどの方が覚えていないと思うんですね。絶対に見ているけど覚えていない「意識にのぼらないゾーン」です。でも、今私が「壁紙はどうでしたか?」と聴いたら一生懸命思い出すじゃないですか。こうやって人に聴かれることで、今まで無意識に避けていたり反応しなかったものに気がつけて、これが新たな学びになって経験や判断が変わっていくということが、聴かれることを通して起きているんだと思います。 みんながちゃんと聴かれるようになったら、例えばハラスメントをしがちな構造に陥ってしまっている方々も、だんだん自分の意識や感度が変わって、相手の表情とかに気を向けられるようになると思っています。聴けるようになったらいいんですよね。けれども、「聴く」スキルの習得にはご自身の「聴かれた」体験が必須なんです。ここがなかなか一般的なハラスメント研修だけだと、かなり丁寧にやってもカバーしきれないところなのではないかと思います。日本に帰ってきて調べてみたらレシピもあるし、材料も普通にスーパーで売っているものばかりだから、ぜひ今日の夕食に作ってみてくださいと。私はたぶんこの話を本人から最低15回ぐらいは聴いていますが、一度も作ろうと思ったことがないです。 なぜかと言うと、食べたことがないから。そもそも興味が湧かないし、仮に興味が湧いたとして作っても、本物を食べたことがないから(味が)それでいいのかわからないんですよね。それで不安に思って、「これはおいしいのかな? これなのかな?」と思って食べていたら、本来はおいしいはずのものもなかなかおいしく感じられない。同じように「聴く」ということに関してもまず「聴かれた」経験がないと、聴けるようにならない。聴けるようになって初めて、前半でお示しした右の世界のコミュニケーションが少しできるようになる。パワハラと言うとどうしてもパワーのある方がない方に向けての話になりますが、(聴けるようになれば)より新しい世代である、パワーのない方と目線を合わせたコミュニケーションができるようになる。まず「聴かれた」体験が必要なんじゃないかというのが、ここでお示ししたかったところです。実際にそれを、全社一丸となって取り組まれたトヨタモビリティパーツのみなさんのお話をこのあとでうかがってまいります。実際に実地で変えていくってどういうことなの? というのを、うかがっていこうと思います。まずはここまで聴いてくださってありがとうございました。.
:ここで「きく」とは何かということをあらためて確認します。「きく」というのは、大きく2種類あるんですね。「with judgement=聞く」の聞き方は、ある人が「子どもの頃から英語を学ばせるべきですよね!」と意見を言った時に、聞き手が「そうですよね」あるいは「そうですかね」というように、自分の考えに照らして、半ば無意識に反応が頭の中であり、表情とか相槌に表れるものです。 一方、「without judgement=聴く」は、判断を留保すべき聴き方です。「子どもには小さい頃から英語を学ばせるべきですよね!」と言った時に、「そういうお考えなんですね。そう思った背景を教えてください」と、もしかすると子どもの英語教育に関してぜんぜん違う考えを持っているかもしれないけど、「なるほど」といっぺん受け取る。あるいはもうちょっと背景を理解したいと関心を向ける。こういう聴き方です。ただ、一生懸命に聞く時に我々が自然にやりやすいのは「with judgement」で、相当意識したり、そもそもこういう聴き方があると知らないとやれないのが「without judgement」です。『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』というおもしろい本があります。著者は組織心理学の第一任者のアダム・グラントという方です。 この本の中で「motivational interviewing(動機面談)」というものが紹介されています。この面談手法は、実は行動科学の分野で最も強いエビデンスに支えられた手法で、1,000を超える対照試験がなされていて、その論文の4分の3で統計的にこれは意味がある、人は変わるということを言っているんですね。インタビューではぜんぜん説得とかはしないで、普通にそのお母さんに「予防接種についてどうお考えですか?」と尋ねます。(お母さんが)「嫌です」とおっしゃると、どういう背景なのかとか、どんな思いなのかをただ聴いて、なるほどと。最後に「私は医師で、予防接種に関しては少しお母さんとは違う考えを持っているのですが、聴いてもらえますか?」と言って5分ぐらい話すんです。 そして最後に、「このように私の考えはお母さんとは少し違うんだけれども、お母さんが予防接種をどうするのか、どっちにお決めになってもそれはお子さんの幸せと健康を願ってのご判断だということがよくわかったので、尊重します」と言って、帰すんです。そうすると、かなり高い確率で予防接種を打たせに来るんです。これを別の角度で、何が起きているのかを説明してみます。これは安宅和人さんが「人が認知をする・知覚をするとはどういうことなのか」をモデル化したものです。私たちは感覚的にいっぱいインプットを受けているんですけど、自分の中で「この対象は大事」というのを受け取って、それをいろいろ組み合わせてつなぎ込んで認知が生まれて、そしてそれが判断や行動につながるということをおっしゃっているんですね。当然、過去のさまざまな体験はみんな違います。ですから、この真ん中のOSをかたち作る「価値観」も「信念」も「セルフイメージ」もみんな違うので、同じ状況においても気がつくことが違ったり反応が違ったりするわけです。ですから、ハラスメントを起こしてしまう方も過去の経験に基づいて、なんらかの意味を取ったからそういう行動を繰り返すわけだし、ハラスメントを受けた側の人は別の価値観の基でこれをぐるぐる回しているんですよね。 例えば同じ場所に行って、同じものを見たり経験しても感じ方とか意味が違ったりします。先ほどの安宅さんの説明にもありましたが、さまざまな強さの刺激を受けた時に、実際にそれについて意識にのぼらせて気がつくものと、意識にのぼらないものがあります。 例えば昨日、どこかお家以外で訪れた部屋を1個思い出していただきたいんです。壁紙はありましたか? ほとんどの方が覚えていないと思うんですね。絶対に見ているけど覚えていない「意識にのぼらないゾーン」です。でも、今私が「壁紙はどうでしたか?」と聴いたら一生懸命思い出すじゃないですか。こうやって人に聴かれることで、今まで無意識に避けていたり反応しなかったものに気がつけて、これが新たな学びになって経験や判断が変わっていくということが、聴かれることを通して起きているんだと思います。 みんながちゃんと聴かれるようになったら、例えばハラスメントをしがちな構造に陥ってしまっている方々も、だんだん自分の意識や感度が変わって、相手の表情とかに気を向けられるようになると思っています。聴けるようになったらいいんですよね。けれども、「聴く」スキルの習得にはご自身の「聴かれた」体験が必須なんです。ここがなかなか一般的なハラスメント研修だけだと、かなり丁寧にやってもカバーしきれないところなのではないかと思います。日本に帰ってきて調べてみたらレシピもあるし、材料も普通にスーパーで売っているものばかりだから、ぜひ今日の夕食に作ってみてくださいと。私はたぶんこの話を本人から最低15回ぐらいは聴いていますが、一度も作ろうと思ったことがないです。 なぜかと言うと、食べたことがないから。そもそも興味が湧かないし、仮に興味が湧いたとして作っても、本物を食べたことがないから(味が)それでいいのかわからないんですよね。それで不安に思って、「これはおいしいのかな? これなのかな?」と思って食べていたら、本来はおいしいはずのものもなかなかおいしく感じられない。同じように「聴く」ということに関してもまず「聴かれた」経験がないと、聴けるようにならない。聴けるようになって初めて、前半でお示しした右の世界のコミュニケーションが少しできるようになる。パワハラと言うとどうしてもパワーのある方がない方に向けての話になりますが、(聴けるようになれば)より新しい世代である、パワーのない方と目線を合わせたコミュニケーションができるようになる。まず「聴かれた」体験が必要なんじゃないかというのが、ここでお示ししたかったところです。実際にそれを、全社一丸となって取り組まれたトヨタモビリティパーツのみなさんのお話をこのあとでうかがってまいります。実際に実地で変えていくってどういうことなの? というのを、うかがっていこうと思います。まずはここまで聴いてくださってありがとうございました。
United States Latest News, United States Headlines
Similar News:You can also read news stories similar to this one that we have collected from other news sources.
テレワークに伴い、急増している「不正ログイン被害」 IT初心者でもラクに管理できる、ID認証サービス活用事例テクノロジーの発達によって、生活は便利になっている一方で、誰もがサイバー犯罪とは無縁でいられなくなった現代。株式会社網屋主催の「Security BLAZE 2022」では、セキュリティの最前線で活躍するエキスパートが集結し、さまざまなサイバー犯罪の手口や対策方法について講演を行いました。本記事では、テレワークで急増している不正ログイン被害を防ぐためのポイントや、クラウドセキュリティサービスの活用事例について解説しています。
Read more »
強力な権限を持つ「特権ID」に潜む、悪用リスク 不正行為が容易で検知は困難となる、重要IDの管理方法テクノロジーの発達によって、生活は便利になっている一方で、誰もがサイバー犯罪とは無縁でいられなくなった現代。株式会社網屋主催の「Security BLAZE 2022」では、セキュリティの最前線で活躍するエキスパートが集結し、さまざまなサイバー犯罪の手口や対策方法について講演を行いました。本記事では、NRIセキュアテクノロジーズ株式会社の鈴木悠太氏が、強い権限を持つ「特権ID」の管理についての課題と解決策を語りました。
Read more »
不正利用から「特権ID」を守るには? 最初から100点を目指さない、3段階のセキュリティ強化策テクノロジーの発達によって、生活は便利になっている一方で、誰もがサイバー犯罪とは無縁でいられなくなった現代。株式会社網屋主催の「Security BLAZE 2022」では、セキュリティの最前線で活躍するエキスパートが集結し、さまざまなサイバー犯罪の手口や対策方法について講演を行いました。本記事では、NRIセキュアテクノロジーズ株式会社の鈴木悠太氏が、強い権限を持つ「特権ID」の管理についての課題と解決策を語りました。
Read more »
初期化したHDDから“世界最大級の情報漏えい”が発生 実は危険な「データ消去」のやり方と、IT資産を守るための心得テクノロジーの発達によって、生活は便利になっている一方で、誰もがサイバー犯罪とは無縁でいられなくなった現代。株式会社網屋主催の「Security BLAZE 2022」では、セキュリティの最前線で活躍するエキスパートが集結し、さまざまなサイバー犯罪の手口や対策方法について講演を行いました。本記事では、神奈川県庁で発生した大規模な情報漏えい事件を事例として、PCの使用後の取り扱いにも注意が必要な理由や、安全にデータ消去を行うためのポイントについて解説しています。
Read more »
【解説】『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を音楽で読み解く ─ サントラ収録曲を物語に重ねて | THE RIVER【解説】『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を音楽で読み解く サントラ収録曲を物語に重ねて ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー マーベル
Read more »
“ブロック塀”の組織で育った管理職と、”石垣”の組織を期待する若手 ハラスメントの常態化につながる「構造」のズレの問題年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「ハラスメント文化の組織改革~心理的安全性の高い組織づくり」をテーマに行われたセミナーの模様を公開。取締役の篠田真貴子氏が、ハラスメントが起こる原因と解決策について提言を行いました。本記事では、ハラスメントが発生する「構造」の問題点について解説しました。
Read more »
