AIエージェントは決済の骨格を変えるだけでなく、AI × クリプトによってさらなる地殻変動をもたらしていく。
※シリーズ「 Crypto Matters 」のバックナンバーはこちら このところ、米国の話題は「ステーブルコインに利息(報酬)を付けるのはアリか」でざわついている。 世界最大級の仮想通貨取引所である米Coinbaseが米ドル連動コイン(USDC)の残高に年4.1%の報酬を付け、平均0.6%程度の普通預金金利を大きく上回っているのが引き金だ。 仮想通貨側は「USDCを一定額以上保有すれば毎週“報酬”が入る」とわかりやすく提示した。原資は「自社のマーケティング予算」だと説明する一方、発行体が裏付け資産(現金や短期米国債)から得た利子の一部が間接的に回っているのではないか、という見立ても市場にはある。 銀行側は「法の抜け穴を使った実質利息だ」と抗議、「最大6.
6兆ドルの預金流出になり得る」と危機感をあおり、関連会社や取引所にも禁止を拡大するよう議会に求める。対する仮想通貨側は、表示や開示の適正化には応じるとしても、「高い報酬を全面的に封じるのは価格競争の否定だ」「競争と利用者の選択を奪う」と反発する。 銀行側が示す「最大6.6兆ドル流出」という上限シナリオは、現時点のステーブルコイン時価総額は約3,000億ドルにとどまることを踏まえ、その規模感に疑問の声もある。 ステーブルコインを巡る数字の受け止め方は割れるが、金融のDXが大きく進展し、資金が動きやすい環境になっているのは事実だろう。 例えばスマホの金融アプリには、複数の銀行口座やウォレットを一つの画面で並べて比較し、その場で即時振替できる機能がある。証券アプリでは、未使用現金を自動で高利回りの現金同等資産にスイープする設定が一般化している。AIを使う家計アプリは、残高が閾値を下回ると自動で資金を移すといったルールも組める。 つまり、残高比較・ルート選択・実行までがアプリ内で直結し、手続きコストも時間コストもゼロに近づく。こうした「ボタン一つで資金を移せる」時代にステーブルコインが利回りを競えば、その利回りの“見え方”の差がユーザーの行動に直結し、資金が一斉に動く可能性はゼロではない。だから銀行は早めに線を引きたいし、仮想通貨側は柔軟な枠を守りたいのだろう。 結局のところ、銀行 vs. 仮想通貨の争いの焦点は「資金がどこに滞留(フロート)し、その果実を誰が得るのか」に集約されつつある。フロートとは、決済に向かう途中で一時的に“寝ている”資金のこと。ここに収益が生まれる。 例えばカード決済では、支払う側の口座から資金が出て、加盟店に最終入金されるまでの間に清算ネットワークや代行業者の口座を経由する。この短い滞留のあいだに資金が安全資産で運用されれば利息が発生するし、為替や両替が絡めばスプレッド(差益)も生じる。銀行振込でも、運用こそ控えめでも、時間差に伴う利息やシステム利用料が積み上がる。 ステーブルコインは、これに似た構造をもっている。発行体は「1コイン=1ドル」を維持するために現金や短期国債などの安全資産を保有し、その利子はまず発行体の収益になる。ここから“報酬”として一部をユーザーに回す設計も可能だし、仮想通貨取引所が自らの費用で上乗せすることもできる。 要は「資金がどの台帳に、どれだけの時間、どのくらいの額で滞留するか」で利息と手数料の帰属が決まる。だから銀行や仮想通貨取引所といったプレイヤーは、自分の側でフロートを長く・大きく・安全に抱えられる設計を求めている。 ここに「銀行 vs. 仮想通貨」の力学がある。 ステーブルコインの利息が大問題になる理由も、ここから見えてくる。もし「利息(報酬)OK」なら、ウォレット事業者はユーザー資金を自分の台帳で“寝かせる”動機をもてる。 例えば「残高◯万円を常時キープすれば毎週報酬」という設計にすれば、資金は清算前の“待機ゾーン”にとどまりやすく、発行体や関連会社は裏付け資産からの利子やネットワーク手数料を取り込みやすい。逆に「利息NG」なら、資金を長く滞留させる誘因が弱まり、カード・即時振込・コインのいずれかですぐに清算する流れが強まるのだ。 前回ここで触れたとおり、アルファベット傘下のグーグルが発表した「Agent Payments Protocol(AP2)」は支払いの合意を機械可読な「Mandate(許可/意図)」として記録し、その一枚の“許可証”をカード・即時振込・ステーブルコインなど複数レールにまたがって流用できる前提を用意する。 AIエージェントは、手数料・着金スピード・買い手保護の度合い・為替コストに加え、事業者やユーザーが定めたポリシー(リスク許容度や資金滞留の最小化など)を同時に評価し、清算ルートをリアルタイムに切り替える。 結果として、フロートの滞留先は秒単位で最適化され、利息(報酬)とネットワーク手数料という二つの果実の帰属は状況に応じて動的に入れ替わる。 このとき鍵になるのが、クリプトが育ててきた設計原則だ。イーサリアム(Ethereum)が掲げてきた「検閲耐性」「パーミッションレス」「クレディブル・ニュートラリティ(信頼に足る中立性)」という価値観が、AI時代の決済設計に直接効いてくる。 クレディブル・ニュートラリティとは、誰か特定の参加者をえこひいきしないだけでなく、外から見ても中立だと“信じられる透明性”を備えた仕組みを指す。ビッグテックの裁量に依らず、公開されたプロトコルで「Mandate(許可/意図)」が扱われ、どのレールに流すかが明示的なルールで決まる──そのこと自体が、市場への新規参入と公正な競争を下支えする。 イーサリアムがもう一つのこした重要な視点が、「貨幣=状態の更新(state)」という捉え方だ。イーサリアムは世界共通の状態(残高や契約の条件など)をもち、取引(トランザクション)が入力される度に、状態遷移関数によって世界の状態が一歩先へ確定する設計になっている。 口座の残高も、アクセス権の付与も、「状態をどう更新したか」として表現される。だから支払いとは、「状態を更新する権利」の行使にほかならない。Mandate(許可)は、その権利を誰に・どこまで・どんな条件で委ねたかを、暗号的に証拠化する許可証だと言い換えられる。 ゆえに、利息の可否は単なる金利キャンペーンの問題ではなく、合意の記録を誰のルールでつくるか(Mandateの標準化と運用)、価値の通り道を誰が支配するか(レール選択)、資金がどの台帳に滞留するか(フロートの帰属)という金融の地殻変動を伴う設計論へと収斂する。 AP2はこの設計論の交点に立ち、共通“言語”としての「Mandate(許可/意図)」と多レール清算を梃子に、銀行と仮想通貨の役割分担を再編していくのだ。 日本の現実はどうか。実は、米国と同じ「銀行 vs. 仮想通貨」の構図が、そのまま日本に来るわけではない。 米国は、利回りの“見え方”が資金移動を大きく左右する市場だ。仮想通貨取引業者が高めの報酬を掲げれば、ボタン一つで資金が動く──だから銀行は利息の線引きで真っ向からぶつかる。一方、欧州は、銀行や電子マネー発行体が厳格な枠組みのなかでトークンと共存する色合いが強く、対立というより「制度のなかでの併存」が基本線になりやすい。 日本はさらに性格が違う。そもそも日本には「銀行 vs. 仮想通貨」の対立は存在しないのだ。日本で円建てステーブルコインに相当する仕組みは、資金決済法のもとで電子決済手段(EPI: Electronic Payment Instrument)として枠組み化されている。法律上の「暗号資産(仮想通貨)」とは別のカテゴリーだ。 なかでも信託を使う第三号スキームは、裏付け資産の安全確保と運用範囲が厳密に定められ、運用益は主に信託報酬などの費用に充当、残りはスキームのスポンサーに配分される想定だ。保有者に恒常的な“利息”を配る設計は取りにくく、仮に経済的利益の分配を前面に出せば金融商品取引法の規制(開示や販売ルール)の対象に接近する。 さらにゼロ金利政策が長く続いた日本では、円の短期国債の利回りは構造的に低く推移しやすく、日々の普通預金金利も低位にとどまりがちだ。米ドル建ての短期債が生む数%の利回りを、そのまま円建てで再現するのは難しい。 このため、日本で当面起きる競争は、ステーブルコインが利回りで預金を一気に吸い上げるのではなく、裏付け資産の預け先(どの銀行のどの口座か)、どの清算レールを多用するか、そして手数料やポイントといった非金利の設計で差をつける、というかたちになりやすい。 結論、これから日本で起きるのは「銀行 vs. 仮想通貨」の二項対立ではなく、「銀行・信託・決済ネットワーク・ステーブルコイン事業者」が、それぞれの強みを束ねて資金の滞留先を最適化し合う「レール間の主導権争い」だろう。 ステーブルコインをめぐる競争は、国が異なれば、ここまで大きく違うのだ。 comugi|コムギ リサーチャー・編集者。TBS Podcast「コムギコ」パーソナリティ。ビジネス書の編集者、グローバル暗号資産Webメディア日本版の編集長、シンガポール拠点のWeb3ファンド「Emoote(エムート)」共同創業者・リサーチャーを歴任。Web3やAIなどデジタルテクノロジー分野の最新動向を追う。X・YouTubeなどのSNSを通じてビジネス×デジタルテクノロジーに関する最新情報を発信中。著書に『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)。X: https://x.com/ro_mi AIエージェントが変える決済の骨格|Crypto Matters 米国ホワイトハウス「暗号資産レポート」の正体|Crypto Matters ステーブルコインはなぜ国家に潰されないのか?|Crypto Matters 気鋭のAI研究者たちやユヴァル・ノア・ハラリが語る「人類とAGIの未来」。伝説のゲームクリエイター・小島秀夫や小説家・川上未映子の「創作にかける思い」。大阪・関西万博で壮大なビジョンを実現した建築家・藤本壮介やアーティストの落合陽一。ビル・ゲイツの回顧録。さらには不老不死を追い求める富豪のブライアン・ジョンソン、パリ五輪金メダリストのBガール・AMIまで──。未来をつくるヴォイスが、ここに。グローバルメディア『WIRED』が総力を結集し、世界を動かす“本音”を届ける人気シリーズ「The Big Interview」の決定版!!詳細はこちら。
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