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NPO法人issue+design(イシュープラスデザイン)は2019年、ウェブ上で『認知症世界の歩き方』の連載を始めた。きっかけは代表の筧裕介(50)が、慶応大大学院教授で認知症やケア人材政策などを研究する、堀田聰子と出会ったことだ。 2018年に初めて会食の場で会い、食事もそっちのけで思いを語る堀田の熱意に圧倒された。また堀田は認知症の本人、支援者、専門職、関係団体や行政などにもネットワークを持ち、連載第1回で紹介した認知症当事者100人へのヒアリングも、彼女の人脈がなければ成し得なかったという。「僕1人では何の課題も解決できません。各領域に関して強い思いを持ち、深く現場に入って挑戦している人たちと一緒に取り組むことでこそ、問題は解ける。だから『素晴らしい出会い』を頂いた時が、そのテーマに取り組む時期だと考えています」 『認知症世界の歩き方』が世に出るまで、認知症関連の論文や書籍の大半は介護する側の立場で書かれ、当事者を主語とする出版物はほとんどなかった。2021年に本を出版すると、認知症の関係者に「当事者の考え方、感じ方を本にできるとは思わなかった」と驚かれたという。しかし筧の方も「当事者目線の本が今までなかった」ことに驚いた。 「本人のQOLや快適さについての言及はあっても、介護者がそれらをどう実現するかがテーマで、本人が何を考えているのかは書いていない。行政も専門職も、支援する側からされる側へという一方通行の発想しかできなくなっていることが、むしろ衝撃でした」第1回に登場した自治体職員、水野義之(44)は筧と認知症の教材開発などで協働しているが「筧さんには認知症も含めて『スティグマ』があまりない。だからこそ当事者の話をフラットに聞き、その考え方を本にできたのではないか」と話す。 「社会の人は、認知症だとすべてにおいて『できない』ことをベースに判断しがちなので『当事者には論理的な話はできない』と決めつけられてしまうことも多い。しかし筧さんは当事者にも構えた様子がなく、普通に話しかけたり一緒に笑ったりしていました」(水野)当事者の多くは、自分がなぜ人の顔を判別できないのか、自宅の場所を忘れてしまうのかが理解できず、混乱に陥ったり自分に憤りを感じてしまったりする。本を読んで自分の行動の理由を知ることで、精神的に楽になった、という声が届いたのだ。 「当事者は何も分からないわけではなく、軽度の人は、『自分は認知症だ』という病識もあります。例えばこの本で、トイレの失敗は尿意の感覚が鈍ったためだと分かれば、スマホのタイマーで排泄時間を管理するなど対策もできる可能性が高まります」勇二は3年ほど前、若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けた。当時は定年前で働いていたが、仕事の内容をまとめられなくなり、自分の駐車場の場所が分からなくなるなど「それまでできていたことができなくなったことに、すごく悩んでいました」(勇二)。「夫に対して『なんでこんなことをするんだろう』と思っていたことの多くは、病気のためだと納得できた。それまで読んだ認知症の本には、絶望的な内容ばかり書いてあったのですが、筧さんの話を聞くと『認知症でも大丈夫』だと安心できました」(友理江) 友理江は、勇二の日々の行動について「それまでも理解したつもりでいたけれど、筧さんの本の具体的な説明によって、本当の意味で腹落ちできました」という。例えば勇二は毎回、自宅のトイレの場所を見失ってしまう。ドアに大きく「トイレ」と書いても分からない。それは「閉じたドアの向こうに何があるかを想像できない」「文字を見ても内容を想起できない」といった症状の可能性があった。ただ、社会の認知症に対する理解が進んでいないために「夫はいろんなことができず、自由が利かない中で生きていて、かわいそうです」と、友理江は言う。 勇二は、モノや空間の奥行きや距離感をつかむ「空間認知能力」が低下しているため、道で人に近づきすぎたりぶつかったりして、不審がられたり嫌な顔をされたりすることも多い。このためサポートなしにはなかなか外出できないし、旅行もままならない。好きなテニスを再開するにも、周囲の理解を得るのに2〜3年かかった。 ただ夫妻の働き掛けによって、最近はテニスもできるようになり、新たにグラウンドゴルフも始めた。グラウンドゴルフ仲間のひとりは「鞠子さんを見ていると、自分が認知症になってもスポーツを続けられるんだなと思える」と話したという。 友理江は「認知症でも、受け入れる人の理解さえあればできることは多いのではないか、と思えるようになりました。ただ進行性の病気なので、今できることができなくなる前に社会の理解を広げ、夫にやりたいことをやらせてあげたい」と語る。勇二も「いろんなことに諦めずトライして、少しずつでもできるようにしていきたいし、それを許してくれる社会であってほしい」と語った。「子育てやまちづくり、防災といった『社会課題解決かいわい』の人たちですら、認知症領域に対しては、驚くほど関心が薄い。行政の区分も介護福祉の部署が、経済振興やまちづくりなどの部署と切り離され人材交流もない、という自治体が多々見られます」 筧は当初「1000万人もの当事者がいる認知症は、これまで取り組んできた社会課題の中では、ビジネスとの距離が近いのではないか」と考えていた。企業に認知症当事者でも利用しやすいインフラやサービス開発の業務を提案したこともあるが、その結果は「全滅だった」という。企業にとって認知症当事者は、お金を使えない人、何もできない人であって、顧客とは見なされなかったのだ。 「認知症予防の市場と、おむつのような介護用品の市場はありますが、当事者をターゲットにした商品やサービスは論外でした。介護経験のある役員などが『いい活動ですね』と評価してくれても、周りが無関心で共感を得られず、決裁が通らないんです」仮に早期発見できても多くの場合、診断を受けた人は社会から「もう働けない」「スポーツクラブには参加できない」などと認識され、仕事や趣味など多くのものを取り上げられてしまう。このため認知症は「早期発見、早期絶望」の病とも言われてきた。「無関心層」に関心を持ってもらうためのアプローチの一つが「映画」だ。書籍が国際的に好評を博したこともあり、映像作品なら海外の人たちへもメッセージを伝えやすいと考えた。2027年の公開を目指して現在制作中で、制作費を募るクラウドファンディングには日本・フランス・英国・台湾の4カ国で約1000万円が集まった。.
NPO法人issue+design(イシュープラスデザイン)は2019年、ウェブ上で『認知症世界の歩き方』の連載を始めた。きっかけは代表の筧裕介(50)が、慶応大大学院教授で認知症やケア人材政策などを研究する、堀田聰子と出会ったことだ。 2018年に初めて会食の場で会い、食事もそっちのけで思いを語る堀田の熱意に圧倒された。また堀田は認知症の本人、支援者、専門職、関係団体や行政などにもネットワークを持ち、連載第1回で紹介した認知症当事者100人へのヒアリングも、彼女の人脈がなければ成し得なかったという。「僕1人では何の課題も解決できません。各領域に関して強い思いを持ち、深く現場に入って挑戦している人たちと一緒に取り組むことでこそ、問題は解ける。だから『素晴らしい出会い』を頂いた時が、そのテーマに取り組む時期だと考えています」 『認知症世界の歩き方』が世に出るまで、認知症関連の論文や書籍の大半は介護する側の立場で書かれ、当事者を主語とする出版物はほとんどなかった。2021年に本を出版すると、認知症の関係者に「当事者の考え方、感じ方を本にできるとは思わなかった」と驚かれたという。しかし筧の方も「当事者目線の本が今までなかった」ことに驚いた。 「本人のQOLや快適さについての言及はあっても、介護者がそれらをどう実現するかがテーマで、本人が何を考えているのかは書いていない。行政も専門職も、支援する側からされる側へという一方通行の発想しかできなくなっていることが、むしろ衝撃でした」第1回に登場した自治体職員、水野義之(44)は筧と認知症の教材開発などで協働しているが「筧さんには認知症も含めて『スティグマ』があまりない。だからこそ当事者の話をフラットに聞き、その考え方を本にできたのではないか」と話す。 「社会の人は、認知症だとすべてにおいて『できない』ことをベースに判断しがちなので『当事者には論理的な話はできない』と決めつけられてしまうことも多い。しかし筧さんは当事者にも構えた様子がなく、普通に話しかけたり一緒に笑ったりしていました」(水野)当事者の多くは、自分がなぜ人の顔を判別できないのか、自宅の場所を忘れてしまうのかが理解できず、混乱に陥ったり自分に憤りを感じてしまったりする。本を読んで自分の行動の理由を知ることで、精神的に楽になった、という声が届いたのだ。 「当事者は何も分からないわけではなく、軽度の人は、『自分は認知症だ』という病識もあります。例えばこの本で、トイレの失敗は尿意の感覚が鈍ったためだと分かれば、スマホのタイマーで排泄時間を管理するなど対策もできる可能性が高まります」勇二は3年ほど前、若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けた。当時は定年前で働いていたが、仕事の内容をまとめられなくなり、自分の駐車場の場所が分からなくなるなど「それまでできていたことができなくなったことに、すごく悩んでいました」(勇二)。「夫に対して『なんでこんなことをするんだろう』と思っていたことの多くは、病気のためだと納得できた。それまで読んだ認知症の本には、絶望的な内容ばかり書いてあったのですが、筧さんの話を聞くと『認知症でも大丈夫』だと安心できました」(友理江) 友理江は、勇二の日々の行動について「それまでも理解したつもりでいたけれど、筧さんの本の具体的な説明によって、本当の意味で腹落ちできました」という。例えば勇二は毎回、自宅のトイレの場所を見失ってしまう。ドアに大きく「トイレ」と書いても分からない。それは「閉じたドアの向こうに何があるかを想像できない」「文字を見ても内容を想起できない」といった症状の可能性があった。ただ、社会の認知症に対する理解が進んでいないために「夫はいろんなことができず、自由が利かない中で生きていて、かわいそうです」と、友理江は言う。 勇二は、モノや空間の奥行きや距離感をつかむ「空間認知能力」が低下しているため、道で人に近づきすぎたりぶつかったりして、不審がられたり嫌な顔をされたりすることも多い。このためサポートなしにはなかなか外出できないし、旅行もままならない。好きなテニスを再開するにも、周囲の理解を得るのに2〜3年かかった。 ただ夫妻の働き掛けによって、最近はテニスもできるようになり、新たにグラウンドゴルフも始めた。グラウンドゴルフ仲間のひとりは「鞠子さんを見ていると、自分が認知症になってもスポーツを続けられるんだなと思える」と話したという。 友理江は「認知症でも、受け入れる人の理解さえあればできることは多いのではないか、と思えるようになりました。ただ進行性の病気なので、今できることができなくなる前に社会の理解を広げ、夫にやりたいことをやらせてあげたい」と語る。勇二も「いろんなことに諦めずトライして、少しずつでもできるようにしていきたいし、それを許してくれる社会であってほしい」と語った。「子育てやまちづくり、防災といった『社会課題解決かいわい』の人たちですら、認知症領域に対しては、驚くほど関心が薄い。行政の区分も介護福祉の部署が、経済振興やまちづくりなどの部署と切り離され人材交流もない、という自治体が多々見られます」 筧は当初「1000万人もの当事者がいる認知症は、これまで取り組んできた社会課題の中では、ビジネスとの距離が近いのではないか」と考えていた。企業に認知症当事者でも利用しやすいインフラやサービス開発の業務を提案したこともあるが、その結果は「全滅だった」という。企業にとって認知症当事者は、お金を使えない人、何もできない人であって、顧客とは見なされなかったのだ。 「認知症予防の市場と、おむつのような介護用品の市場はありますが、当事者をターゲットにした商品やサービスは論外でした。介護経験のある役員などが『いい活動ですね』と評価してくれても、周りが無関心で共感を得られず、決裁が通らないんです」仮に早期発見できても多くの場合、診断を受けた人は社会から「もう働けない」「スポーツクラブには参加できない」などと認識され、仕事や趣味など多くのものを取り上げられてしまう。このため認知症は「早期発見、早期絶望」の病とも言われてきた。「無関心層」に関心を持ってもらうためのアプローチの一つが「映画」だ。書籍が国際的に好評を博したこともあり、映像作品なら海外の人たちへもメッセージを伝えやすいと考えた。2027年の公開を目指して現在制作中で、制作費を募るクラウドファンディングには日本・フランス・英国・台湾の4カ国で約1000万円が集まった。
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