米国に「フリーダムシティ」をつくろうという動きが、活発化している。トランプ政権が公約にも掲げたこの構想は、連邦規制の一部が及ばない特区を作り出すものだ。推進するグループが複数ある一方、モデルとなったホンジュラスの「プロスペラ」は現地国民から強い反発を受けている。
「スタートアップ都市」とは、地元政府に税金を納めず規制も受けないテック・ハブ自治区を指す。こうした経済特区を提唱する複数のグループが、米国内にも連邦法が一部及ばない「フリーダムシティ」をつくるべく、法案を議会に提出しようとしていることが『WIRED』の調査でわかった。 『WIRED』が各種プレゼンテーションを確認し、関係者に取材したところ、グループが目指すのは、食品医薬品局(FDA)の承認なくアンチエイジングの臨床試験を行ったり、原子力規制委員会に申請することなく原子力分野で起業したり、環境保護庁(EPA)との調整なく建築ができるような、政府の規制を受けない特区をつくることだ。 ホンジュラスには、プロスペラ(Próspera)と呼ばれる「スタートアップ都市」がある。ここの首席補佐官であるトレイ・ゴフは、2月からの数週間、同僚とともにロビーグループ「フリーダムシティ連合(Freedom Cities Coalition)」としてトランプ政権と会合をもったと『WIRED』に語った。税金と規制を免れる経済特区という構想に、トランプ政権は耳を貸してくれるのだとゴフは言う。2023年、トランプは10のフリーダムシティをつくるという考えを仄めかした。ゴフに言わせれば、プロスペラの構想は「10どころではなく、市場が許す限りできるだけ多くのフリーダムシティをつくること」。年内に法律の草案をつくるつもりだという。 「米政権のエネルギーはすごいものです」。ゴフは言う。「関係者との会合に出ると、トランプが言ったのよりずっと大規模で詳細なことを実行する権限を与えられていることがわかります」 フリーダムシティ実現への道筋 ゴフによると、フリーダムシティ連合はホワイトハウス高官に対し、特区をつくるための3つの選択肢を提示したという。ひとつは「州同士の契約」方式。このやり方だと、2つか3つの州が共通の税制と規制を決めて(一部は各州特有のものを残す)土地を供出する。既存の法律では、こうした契約を取り消すことはできない。ただし一定の状況のもとで解散することはできる。 州同士の契約を連邦議会が承認すれば、正式な連邦法になる。連合はフリーダムシティ契約に「事前承認」を与える法律を画策しているとゴフは言う。そうすれば、個別のフリーダムシティをつくるごとに議会の承認を求めなくて済むからだ。 残る選択肢は、特別経済司法地区として連邦政府の飛び地を創設する方法と、新たなフリーダムシティをつくるごとにトランプに大統領令を出してもらう方法だ。 「トランプとホワイトハウスが、どう進めたいか次第です」と、ゴフは言う。「どの道を選んでも、わたしたちが現実にしてみせます」 『WIRED』はホワイトハウスにコメントを求めたが、返事はなかった。 プロスペラの支援者と反対派 フリーダムシティ連合をつくったのは、NeWay Capital LLCと呼ばれる企業で、プロスペラを商標登録している。2020年、ホンジュラスのロアタン島にプロスペラができて以来、低い税金と少ない規制、住民を顧客のように扱ってビジネスのように運営される政府を謳い文句に、この特区はテック技術者やスタートアップを惹きつけてきた。出資者には、ピーター・ティールやマーク・アンドリーセンのような投資家、暗号資産取引所のCoinbaseなどが含まれている。 米国外のスタートアップ都市の大半は、海外からの投資を誘致するため、ビジネスを縛る規制が緩和された特別経済圏(SEZ)のかたちで実現している。フリーダムシティ連合は、これに似たものをアメリカ国内につくろうと考えているようだ。 ただ、現在のホンジュラス政府はプロスペラの存在とその特別経済圏の地位が違法であると考えている。フアン・オルランド・エルナンデス前政権はプロスペラの自治を永久に認める許可を出したが、多くのホンジュラス国民はプロスペラに反発している。ホンジュラス議会は2022年に経済特区の許可を無効にし、直後、プロスペラはホンジュラス政府を相手取って訴訟を起こした。係争はいまも続いている。 ドナルド・トランプがフリーダムシティ構想を仄めかしたのは、2023年3月の選挙運動中だった。大統領に再び選ばれたら、国有地にフリーダムシティをつくるために10の業者を選ぶコンペを実施するとトランプは語った。それ以降、公の場でこの案を繰り返してはいないが、あれはその場限りの発言ではなかったとゴフは確信している。 「マーケティング戦術ではなかったのです。トランプ政権は真剣に考えています」と、ゴフは言う。「トランプ・チームは、選挙期間中に約束したことを、すべて実現させるつもりなのです」 広がる特区推進の動き トランプ政権に働きかけを行なっているのは、フリーダムシティ連合だけではない。非営利団体のフロンティア財団も、同じく非営利のチャーター・シティ研究所と連携して、米国内にフリーダムシティを作ろうとしている。 チャーター・シティ研究所の政策責任者ジェフリー・メイソンは、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のハウジングセンターや、アメリカン・イノベーション財団といったシンクタンクをはじめとする複数の組織と協働していると『WIRED』に語った。「今後数カ月の間に」法案の素案をつくれるはずだとメイソンは言う。 さらに、こうした組織のメンバーは、共和・民主両党の下院議員に加えて、「ホワイトハウス高官たちとも、ざっくばらんに話をしている」とメイソンは言う。 『WIRED』が手にした今年つくられた文書によると、フロンティア財団は「国内のイノベーションと生産は何十年もの間、時代遅れで不必要な連邦法の規制によって妨げられてきた」と考えている。 フロンティア財団代表のニック・アレンは『WIRED』に対し、国有地を使えばスタートアップ都市の建設コストは抑えられると語る。財団は、アイダホ州ボイスやコロラド州グランドジャンクション、オレゴン州レドモンドなど西部の町の郊外にある国有地を好適地として挙げる。「もし法律に基づいて官民協力として政府から土地を与えられるか、信託、あるいは民間会社としてでも、移譲されればコストは下がります」と、アレンは言う。 フロンティア財団の文書はまた、地主がフリーダムシティになることを許したり、「自治体がフリーダムシティになるための住民投票をすることを許したり、隣接する土地の所有者が同意すれば、フリーダムシティを拡張できるようにする」ことも推奨している。 フリーダムシティ運動はなぜ、ミシガン州デトロイトやオハイオ州トレドのような、寂れてしまったかつての工業都市を再生する道を選ばないのかと聞くと、アレンは「フリーダムシティのような新しいものを建設するときは、ある意味で何もないところから始める必要があるのです」と答えた。また、ジョー・バイデン前大統領がホワイトハウスを去る前に、データセンターとして使えるように連邦政府が国有地を貸与する大統領令を出していたことも指摘した。 「資金は十分にあって、政治的意思も十分ある。それなのに、こうした技術を開発することができない」。アレンは言う。「問題は土地がないことと、規制が多すぎることなのです」 だが、元政治コンサルタントで、現在はSubstackでニュースレター「Nerd Reich」を配信するギル・デュランは、何もないところに新たな町を建設すれば好ましくない結果を引き起こす恐れがあると警告する。「法の外にあり、法を超える存在があるなら、国全体にとってそれは何を意味するでしょうか? あたかも、特定の人には法の手が及ばない場所をつくりだすために、それ以外の土地を抉って空っぽにするようなものです」 ゴフはこれに反論する。ホンジュラス全土とは異なる税制が敷かれたプロスペラと違い、米国内につくられるフリーダムシティの人々は国内のほかの町と同じような州税や連邦税を払うことになるだろうという。大きな違いは規制のあり方だと付け加えた。 規制緩和は誰のためか フリーダムシティの勃興によって明らかに恩恵に与る企業がある。長寿を専門とするバイオテック会社Minicircleは、人間の寿命を延ばすための遺伝子治療を開発している。テキサス州オースティンとプロスペラに拠点をもつこの会社の創業資金を出したのは、ピーター・ティールとOpenAIの最高経営責任者(CEO)サム・アルトマンだ。Minicircleの共同設立者であるマック・デイビスはフロンティア財団にも席を置いている。 デイビスによると、たんぱく質フォリスタチンに関するMinicircleの遺伝子治療臨床試験は、プロスペラでしか実施できなかった。彼はこの状況を変えたいと言う。この遺伝子治療は、副作用なしに筋肉量を増やすことができ、寿命を延ばす効果がネズミで確認されたのだとデイビスは続ける。 「みんなが愛犬と一緒に遺伝子治療を受けられる『長生きシティ』を作りたいのです」 フリーダムシティはきっとほかの多くの企業にもメリットがあるとデイビスは言う。例えば、スペースX、防衛関係のハードとソフトを開発するAnduril、アルトマンが会長を務める核分裂関連スタートアップOkloなどだ。 原子力、半導体、防衛技術などアレンがフリーダムシティで成長させたいとして挙げる産業の多くが、SaaS、デジタル、インターネット消費者ブランドから離れつつあるベンチャーキャピタルが注目する分野と一致しているのは、偶然ではない。 「テーマは米国のダイナミズムです」。ベンチャーキャピタル会社であるアンドリーセン・ホロウィッツが2022年に出した宣言を踏まえながら、アレンは言う。その宣言は「もがき苦しむ政府機構の欠点を埋めてきたのは、偉大なテック企業の科学的・経営的な優秀さである」と主張していた。2021年以降、ベンチャーキャピタリストたちは防衛テック分野のスタートアップだけに絞っても1,000億ドル以上を注ぎ込んできた。 莫大なエネルギーを必要とするAIデータセンターを維持していくため、原子力を見直し始めたテック企業もある。アマゾンは昨年、複数の原子力契約を結び、グーグルは2024年10月に原子力会社と契約を結び、メタ・プラットフォームズは原子力の活用方法に関する提案を募集している。 フリーダムシティは、製造業のハブや造船基地としても活用できるとゴフは語る。規制の緩い特区ならば、環境アセスメントをしなくて済むからだ。メイソンによると、フロンティア財団とチャーター・シティ研究所と連携するアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所は、住宅供給を増やすため、何とかしてフリーダムシティを活用したいと考えている。 ただ、メイソンが最も加速させたいと前のめりなのは、バイオテックやAIデータセンターに電力を供給するための原子力の活用だ。 「たくさんのチャンスがあるエリアです。特に、データセンターはもっとたくさん必要になりますからね。未利用の土地はたくさんあります」。メイソンは言う。 だが、ビジネスにやさしい規制緩和は、フリーダムシティを支える超富裕層以外の人にとっては厳しいものになる恐れがあるとデュランは警告する。「こうしたフリーダムシティは民主主義のない都市です。労働者の権利が守られない町です。権力は町のオーナーや企業、大金持ちに集中し、それ以外の人には何の力もない町です」 (Originally published on wired.
com, translated by Akiko Kusaoi, edited by Mamiko Nakano) ※訂正: 2025年4月2日 午前11時30分(米国東部時間) 「スタートアップ国家(startup nations)」という表現を「スタートアップ都市(startup cities)」に変更した。これは、プロスペラがホンジュラスの国家政府の政治的下位区分であり、その憲法、国家間条約、刑法に従うものであることをより正確に示すためだ。同様に、「主権国家(sovereign)」という語を特別な条件なしに使用していた引用も修正した。また、プロスペラの反対派が経済的・環境的な議論を展開していたとする裏付けのない記述も削除した。 ※『WIRED』によるスタートアップの関連記事はこちら。 Related Articles 従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。
サム・アルトマン / Sam Altman スタートアップ / Startup ピーター・ティール / Peter Thiel ベンチャーキャピタル / Venture Capital Sz Membership
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