6月27日(現地時間)、2026年春夏パリ・メンズ・ファッションウィークでジョナサン・アンダーソンによるデビューコレクションを発表したディオール(DIOR)。ムッシュ ディオール以来、ウィメンズ、メンズ、オートクチュールのすべてを統括する初のクリエイティブ・ディレクターとなった彼が描く、メゾンの新章とは。
「私にとってスタイルとは、異なるものや言語をどうひとつにまとめるか、ということです。それが、私がこれから取り組んでいきたいことです」とジョナサン・アンダーソンは言う。ディオール(DIOR)の指揮を執るという、計り知れない責任とプレッシャーが伴う任務をまかされた彼は、ショーに先駆けて公開したムードボードですでに大きな話題を呼び、フロントロウにはリアーナやエイサップ・ロッキー、サブリナ・カーペンターなど、日頃からアンダーソンと親交がある、錚々たるセレブやデザイナーが集った。そんな常人には縁のない環境に身を置いているにもかかわらず、アンダーソンは身近に感じる、堅実なデビューコレクションを作り上げ、それが何よりも説得力があった。 「直感的に、何をどう組み合わせて着るか」── アンダーソンはこのアイデアにまず着目し、メゾンの新章の幕を開けることにした。「バー」ジャケットにはチノショーツと、ソックスにサンダルを。ウォッシュ加工がされた、柔らかなグレーベルベットのモーニングジャケットには、同じトーンの色褪せたブルーデニムを。ルイ16世にもふさわしい、絢爛豪華なフロックコートには、カジュアルなブラックのコットンパンツと、茶色いスエードのハイカットハイキングブーツを。アクセサリーには、1920年代に活躍し、当時のレズビアンたちの生き方を描いたアメリカ人画家ロメイン・ブルックスのスケッチから着想されたストック・タイを用いた。 自身のブランドでも実践している、この巧みなハイローミックスを持ち込むことで、アンダーソンは10年以上にわたってロエベ(LOEWE)に革命を起こし、絶大な賞賛と商業的な成功を収めた。アンダーソンがクリエイティブ・ディレクターに就任した当初、ロエベにははっきりとしたコードはなく、ある意味まっさらな状態からファッションブランドとしてのアイデンティティを作り上げることができた。しかし、メゾンとしての長い歴史を持つディオールでは、話が違う。「ディオールの素晴らしいところは、デザイナーが変わるごとに生まれ変わってきたところです」と語るアンダーソン。「そこが好きです。例えば『ブックトート』は、マリア・グラツィア・キウリが手がけたもので、私が考えたものではありません。でも、新たに作り変えることはできます」 アンダーソン自身が立てているディオールの筋書きは、アンディ・ウォーホルによるアーティストのジャン=ミシェル・バスキアと、ジャクリーン・ケネディの妹でソーシャライトのリー・ラジウィルのポートレートを使用した、ムードボードのビジュアルに象徴されている。アメリカのスタイルアイコンとしても名高いふたりは、「立場や地位は違えど、同じ社交の場に出入りしていてもおかしくはない」とアンダーソンは言う。「ディオールは巨大なメゾンで、すべての人たちにとって、何かしらの意味を持つメゾンでなければなりません。そう続けた彼は、初コレクションでディオールの圧倒的な存在感と繊細なディテールの双方に、巧みに焦点を当てた。 新たな作り手を通して衝突する、メゾンの過去と現在 会場となった巨大なオテル・デ・ザンヴァリッドの外には、クリスチャン・ディオールが初めてモンテーニュ通りに構えた、1950年代当時のサロンの写真を大きく引き伸ばしたものが飾られていた。一方、場内のダブグレーの壁に掛けられていたのは、ジャン・シメオン・シャルダンが1750年代から60年代ごろに制作したとされている、花瓶にいけられたバラと木苺が盛られたボウルがそれぞれ描かれた2枚の静物画。そしてゲストたちが座る席は、モデルたちが纏う服がいかにクオリティが高く、ディテールに富んでいるかを目視できるように、ランウェイを掠めるように並べられていた。「もともとディオールのサロンでは、クチュールはこんな風に、かなりの至近距離で披露されていました」とプレビューで説明したアンダーソン。「チノに施されたウォッシュ加工であれ、ウエストコートのシルクのモアレ感であれ、生地の質感や仕立ての良さが、観覧者たちにわかるようにしたかったのです」。ショーに華を添えた絵画には、壮大さではなく、日常を尊び、重んじたという画家シャルダンの哲学を映し出すとともに、ルックの細部にまで注目してほしいというアンダーソンの願いが込められていたのだろう。アート作品とファッションをつなぐのが常とう手段である、いかにもアンダーソンらしい演出だ。 また、今季は18世紀と19世紀のフランスのメンズウェアから直接的にインスパイアされ、再解釈したピースが登場。「とても貴重な現物のウエストコートを一式見つけたんです」とアンダーソンは説明する。「私と私の世代にとって、マルジェラは神でした。なので、彼みたいに“レプリカ”を作ろうと思ったんです」。花の刺繍、格子模様の金ボタン、シルクモアレ地のモーブ色。これらを寸分の狂いもなく復元することで、アンダーソンは長年受け継がれてきた、ディオールのオートクチュールアトリエの卓越した技術を披露したのだ。フランスのピンクファイユのウエストコートがいかに一級品であるか。シルクのイブニングスカーフの仕立てがいかに洗練されているか。ランウェイと観客席が至近距離にあったため、ゲストたちはまるで手に取るかのように、ひとつひとつのアイテムを鑑賞でき、その完成度の高さに息を呑んだ。 とはいえ、アンダーソンはこれらの美しい服やアクセサリーを、ランウェイルックにとどまらせるつもりはない。若者が掘り出し物の古着を気負いなく毎日のコーデに取り入れるように、手の込んだピースをすべて、実際に日々の中で着てもらいたいという。その思惑もあり、ショーの随所に登場したカラフルなケーブルニットのセーターや、夏らしいシンプルなジーンズといったフレンチプレッピーのアイテムは、日常使いできるものになっていた。 ところで、ジャン=ミシェル・バスキアはどう関係あるのか? アンダーソンは今回、バスキアの親しい友人で、ディオールから1980年代のニューヨークにまつわるポッドキャストの制作を依頼されたカレン・ビンズの意見を求めた。彼女のアドバイスをもとに、デニムのシャンブレーシャツとレップタイという組み合わせや、その他あらゆるネクタイとしてバスキアのスタイルを独自に解釈し、展開したのだろう。ネクタイとシャツを合わせて着ることは、今の若者の間でも流行っている。それを考えると、アンダーソンは幅広い世代に刺さるルックを見事に打ち出したのだ。 もちろん、コレクションを制作する中で、ムッシュ ディオールという存在を無視することはできなかった。そんな偉大な創業者に、アンダーソンはファーストルックを捧げた。「バー」ジャケットは、自身の出身地であるアイルランドのドネガルツイードから作られており、ツイードを用いたアイテムはこの後も時折登場。そしてサイドループ付きのハーフカーゴパンツは、ディオールの1948-49年秋冬オートクチュールコレクションで発表された「デルフト」という名のドレスの構造から着想された。「古いデザインで、売れなかったそうです。私はそこにインスパイアされたんですけれどね」とアンダーソンは笑う。そしてこう付け加えた。「歴史と商業、ファッション性と仕立ての技術を、うまい具合に結び合わせているものだと思います」 アンダーソンは今やファッション界の有力者だ。だが、ライバルがいないわけではない。9月にはディオールで手がける、自身初のウィメンズウェアコレクションを発表するが、同時期にマチュー・ブレイジーとデムナという大物も、それぞれシャネル(CHANEL)とグッチ(GUCCI)でのデビューコレクションを披露する予定だ。今、ラグジュアリーファッション市場は、ここ数十年で最も厳しい状況に置かれている。だが、アンダーソンは全く動じていない。「市場が厳しい状況に置かれているのは、変化することに前向きだということなので、いいことだと思います。それに、私はプレッシャーを感じているときこそ、本領が発揮できるんです」。そう語った彼の瞳は、輝いていた。 ※ディオール 2026年春夏メンズコレクションをすべて見る。 Text: Sarah Mower Adaptation: Anzu Kawano From VOGUE.
ジョナサン・ウィリアム・アンダーソン / Jonathan William Anderson パリコレ(パリ・コレクション) / Paris Collection パリ コレクションレビュー / Paris Collection Review 2026春夏メンズコレクション / 2026 Ss Men's Collection
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