JR東日本の「顔認証改札機」は「Suica」を置き換えるのか【徹底解説】

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JR東日本の「顔認証改札機」は「Suica」を置き換えるのか【徹底解説】
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JR東日本が顔認証技術を使ったウォークスルー改札を上越新幹線で実証実験。タッチもチャージも不要、Suicaの次世代化「Suica Renaissance」構想の第一歩となる取り組み。

東日本旅客鉄道(JR東日本)は11月6日、顔認証技術を使ったウォークスルー改札の実証実験を上越新幹線の長岡駅と新潟駅の間で開始した。 長岡駅の上越新幹線プラットフォームへと続く改札に据え付けられた顔認証改札機 ※クリックすると拡大画像が見られます 事前に募集した同区間の定期券(Suica FREXまたはSuica FREXパル)を持つモニター参加者の約500人が対象で、両駅の移動で顔認証改札機を使ってもらい、その効果検証や今後の改良に向けた問題点の洗い出しなどを行うことが目的。JR東日本では今後10年ほどをかけてウォークスルー改札を実現していく計画で、今回の実証実験はその一歩となる。 実証実験開始にあたり5日には報道関係者向けに顔認証改札機の事前公開が行われた。囲み取材に応じたJR東日本 新幹線統括本部新幹線電気ネットワーク部技術計画ユニットリーダーの恩田義行氏は「顔認証改札機の導入についてはずっと社内で検討してきており、昨年2024年12月に発表した『Suica Renaissance(ルネッサンス)』でも触れた『タッチするという当たり前を超える』というコンセプトでさまざまな技術を検証してきており、多くの荷物や切符を持って改札を通ることに不自由を感じるお客様の多い新幹線において非常に優位性が高い仕組みとして今回の実証実験を行っている」と述べている。 「Suica Renaissance」で触れられたウォークスルー改札に対するJR東日本の取り組み ※クリックすると拡大画像が見られます ウォークスルー改札の導入はメリットが大きい 顔認証改札はウォークスルー改札の本命? ウォークスルー改札はSuicaを置き換えるのか? ウォークスルー改札の導入はメリットが大きい ウォークスルー改札とは、改札を通過するだけで“検札”が完了する仕組みのことだ。かつて紙の切符時代には改札に駅員が常駐して切符にハサミを入れたり、券面をチェックしていたものが、やがて自動改札機が登場すると改札の投入口に磁気切符を投入するだけでよくなって人流がスムーズになった。 現在では交通系ICカードが主流となり、毎回切符を購入して改札機に投入するのではなく、何度も利用可能な“非接触”のICカードにあらかじめ残高をチャージしておくことで、改札機への“タッチ”で素早く通過するようになっている。 Suicaについては「1分間に60人が改札を通過できる」ことを念頭に設計が行われていることが知られており、大都市での朝夕の通勤・通学ラッシュにも耐えられる今日のシステムが成立している。 そしてJR東日本が今後10年で実現しようとしているウォークスルー改札とは、ここでいう“タッチ”や“事前チャージ”のような動作も必要なく、ただ利用者が改札を通過するだけで入場も出場も自動的に処理が行われ、利用分の請求が(後で)行われるようになる。 このメリットは2つある。1つは「ハンズフリー」での通過が可能になること。現在の改札機は“タッチ”または切符の挿入を前提としているため、必ず通過時に片手に切符やICカード、スマートフォンを持って、改札機に近付けなければいけない。 また最近ではスマートウォッチに交通系ICカードの機能を搭載可能なものが増えているが、腕時計を左手に付ける方が多いと思われる一方で、改札機が設置されてICカードを“タッチ”する読み取り部があるのは「右側」だ。つまり腕を器用に動かして“タッチ”しなければならない。その点「ハンズフリー」であれば、この手の動作は一切不要だし、特に大荷物を両手に抱えているときなどや雨の日で傘を持っているときなどは、そのありがたみを理解できるだろう。 実際、JR東日本が今回あえて新幹線で顔認証改札機の実証実験を行ったのも、大荷物を抱えた旅行者や、複数枚の切符を用意する必要があることの多い新幹線改札で慣れていない利用者が戸惑わないよう、そのメリットを強調することが狙いにある。 両手に荷物を抱えた状態でのウォークスルー改札はメリットが大きい ※クリックすると拡大画像が見られます メリットの2つ目は“事前チャージ”不要な点だ。今回の実証実験では「Suica定期券」の保持者がモニター参加条件のため直接リンクしないが、JR東日本では「Suica Renaissance」のコンセプトの中で「Suicaのあと払いサービス」の導入に触れている。現在はSuicaの仕組み上、残高を事前にICカードにチャージしておく必要があるが、今後は技術の進化によりICカードそのものに残高を持たせる必要はなく、「センターサーバ」などで集中管理が可能になる。つまり、1枚のSuicaというカードにこだわる必要はなく、集中管理された残高を使ってさまざまな方法で利用者はSuicaの仕組みを利用できるようになる。 改札通過はもちろん、店舗やオンラインでの買い物まで、Suicaカードではなく、“Suica”というサービスに紐付いた“ID”で残高は管理され、事前チャージした残高で買い物や乗り物を利用してもいいし、利用分をあとでクレジットカードのような形で請求されて支払う形でもいい。これにより、支払い時の残高不足に悩まされたり、残高の入ったSuicaを家に忘れたり紛失したりで一切使えなくなるといったこともない。加えて、この支払いの柔軟性によりサブスクリプションのような仕組みを鉄道で利用できたり、多く鉄道を使った利用客には割引サービスを適用したりと、さまざまな付加サービスが提供できる。 顔認証改札はウォークスルー改札の本命? ウォークスルー改札のメリットが大きいことは分かったが、これを実現する技術は複数存在する。要は、改札を通過するタイミングで「Suica ID」と利用者の紐付けが行えればいいわけだ。これにより、運賃課金に必要な公共交通機関での移動情報や、店舗での買い物の支払い情報など、認識した相手のSuica IDに対して処理を行えばいいということになる。 Suica IDとは一種のインターネットのサービスにおける「アカウント」のようなもので、従来はSuicaカードの1枚ごとに付与されていた番号が、個人単位に割り当てられたものと考えればいい。 これにより、例えばSuica IDと「顔情報」を紐付けて顔認証改札機を通り抜けた場合でも、Suica IDに紐付いたモバイルアプリを使って店舗決済を行った場合でも、請求自体は単一のSuica IDに対して行われる。つまりSuicaが「ID」というアカウント単位での管理に移行することで、さまざまなサービスの利用にあたってさまざまな支払い手段が利用できる。支払い手段が「Suica ID」へと紐付けさえ行われていればいいからだ。 ただ、Suica IDはデメリットもある。さまざまな支払い手段を利用できる点でメリットがあるものの、逆に事前に紐付け作業が必要であり、特に普段Suicaサービス利用を必要としない一見さんのような利用者や、訪日観光客で日本を頻繁に訪れるわけではない外国人などは、このSuica IDの紐付け作業をはじめ、利用開始自体が面倒なものとなる。Suica IDは便利である反面、あくまで「普段からSuicaサービスを使う利用者」を対象としたサービスというわけだ。 話をウォークスルー改札に戻すと、“ウォークスルー”を実現するためには事前の登録作業が必要になる。現在、ウォークスルー改札としては主に2つの技術が有力とされており、1つが今回のテーマでもある「顔認証」、もう1つが「本人証明を行うデバイスの所持」だ。 後者から説明すると、例えばスマートフォンなどでBluetooth(BLE)やUWB(Ultra Wide Band)の電波を発信するアプリを動作させておき、改札通過時にアプリが電波とともにSuica IDを情報を改札機に伝え、誰が改札を通過したのかを改札システムは理解するという流れだ。 駅は基本的に利用者でごったがえしており、もし今後こういった技術を使ったウォークスルー改札が登場した場合、同じようにSuica IDを発信する複数のアプリが狭いエリアに密集することになる。BLEやUWBはアプリが動作するデバイスを保持する利用者の“正確な”位置情報を改札機に伝えるもので、デバイスが通信できる状態でさえあれば、ポケットやカバンに入れたままであっても問題なく改札を通過できる。実際にBLEの仕組みを使ったウォークスルー改札が韓国のソウルなどで実証実験として進められていたりする。 一方の顔認証だが、Suica IDを自らデバイス上で発信可能なアプリとは異なり、顔情報は顔情報でしかなく、自らSuica IDを主張するような電波は発信しない。顔情報はSuica IDのシステムに事前に紐付けて登録しておく必要があり、顔認証改札機ではこの事前登録した顔情報を基にSuica IDの情報を参照する。今回の実証実験では、長岡駅の顔認証改札機はパナソニックコネクトが、新潟駅ではNECがそれぞれ顔認証技術を提供している。 一般に、顔認証の技術は方式が各提供ベンダーによって異なっており、顔情報として保存される「特徴点」の取り方も異なるため、本人照合に利用する保存されたデータに互換性はない。そのため、仕組みとしては事前に登録されたモニター参加者の顔写真をパナソニックコネクトとNECの2社のシステムに異なる形で特徴点情報として記録し、それぞれが担当した改札通過時にはそれぞれが保持する特徴点情報を使って本人確認を行い、問題なければJR東日本が管理する改札システムへとその旨を通知し、通行許可を出す。もしデータベースに合致する情報がない、仮にあったとしてもマスク等を深めに被ったり、下を向いてカメラに写る顔の特徴点情報が少なかった場合には「NG」と判断し、即座に警告を出す。 データベースに未登録の顔情報を持った人物が通過しようとした場合、すぐに警告が出る ※クリックすると拡大画像が見られます 顔認証改札機はデモンストレーションで何度か見ていたが、普通に通過するぶんには何の問題もなく、むしろ切符の出し入れや改札機へのタッチで手間取る隣の通常の改札群に比べ、非常にスムーズに通過できていた印象だ。 ウォークスルー改札に顔認証を使う場合の問題の1つとして、判定に時間がかかるとゲートが開くのに時間がかかったり、今回のケースでいえばNG判定を出すのが改札の通過後といった現象が起きてしまう。 そのため、判定時間を稼ぐために改札レーンを長めにとって歩行距離を長くしたり、今回のケースでいえば利用者が“改札機に近付く前から”判定を開始して(JR東日本によれば今回のケースでは1-2メートル程度)、改札に差し掛かるタイミングではすでに判定が終了しているようにする。後者の場合、判定するまでにカメラに複数の人物が写ってしまう問題があるが、誰が近付いてくるのか正確に捉えて必要な特徴点のみを抽出するので、例えば「カメラの撮影範囲内に顔情報を登録して通過OKの人物が含まれていたせいで、判定NGの人物が改札を通過してしまった」といったケースが防げるという。 もう1つ、この顔認証改札機のサービスはあくまで「普段からサービスを利用するリピーターを対象とした施策」という点にある。事前に顔情報の登録が必要であり、しかもそれが顔認証改札機で判定可能なレベルの品質であるという前提がある。例えば外国人旅行者が日本滞在中の多くの場面で、事前に“1つのサービスに登録した顔情報”で便利に旅程を終えたというならメリットを感じるかもしれないが、顔情報の登録をSuica以外を含む複数のサービスに登録しなければならないというのであれば、単に面倒臭い仕組みでしかない。 おそらくは、この手の顔認証を使うサービスはJR東日本のみならず、さまざまな会社が別々のサービスを立ち上げて提供しようとするため、顔情報はサービスごとに登録しなければならないだろう。沿線通勤者や通学者が一度登録した顔情報で普段からサービスを享受できるのであれば問題ないが、ヘビーユーザーではない一見の利用者に提供するものではないと考える。 ウォークスルー改札はSuicaを置き換えるのか? ウォークスルー改札が今後発展していくと、おそらく冒頭で触れたSuicaが本来想定していた「1分間に60人」といった条件は近いレベルでクリアできるのではないかと筆者は考える。一方で、ウォークスルー改札の性質を知らずに進入する利用者が少なからずいたり、判定NGのケースが少しでもあると流れを大きく遮断することになる。少なくとも事前に利用者への周知が必要だ。ウォークスルー改札の難点は、やはり事前に「Suica ID」など支払い情報への紐付けが必要な点にある。誰でも入手可能ですぐに利用を開始できたSuicaとは異なり、この点の周知が今まで以上に重要になる。 将来的にみて、Suicaという物理カードは縮小傾向に向かうと考えている。最近、鉄道各社がモバイルSuicaなどスマートフォンを使った利用方法への誘導を積極的に行っていることからも分かるように、物理カードはやがて少数派となり、今後はスマートフォンを中心としたサービスになる可能性が高い。スマートフォンを組み合わせることで提供可能なサービスは広がるため、やがて事業者によっては積極的に自社IDへとスマートフォンアプリを介した紐付けへと誘導するようになる。以後は紐付けたIDを使って各種優遇サービスを提供するようになり、おそらくはJR東日本もまたSuica IDで同様のパターンをたどるだろう。 Suicaのような交通系ICそのものが今後10年ですぐに消えるとは考えないが、ユーザーをIDで管理することが主流になるにつれ、改札を通過させるための手段には特にこだわらなくなり、その手段は多様化していく。結果として、駅の改札システムはさまざまな支払い手段が混在する状況が今後しばらくは続くのではないかというのが筆者の予想だ。利用者がその変化について行けるのかも含め、今後10年はさまざまな技術やサービスの過渡期になるだろう。 新潟駅に設置された顔認証改札機。従来の改札機に被せる形で設置されるタイプで、JR東日本によれば「利用者に圧迫感を与えない従来のスタイル ※クリックすると拡大画像が見られます Amazonで現在開催中のセールを見る Amazonのアソシエイトとして、CNET Japanは適格販売により収入を得ています。.

東日本旅客鉄道(JR東日本)は11月6日、顔認証技術を使ったウォークスルー改札の実証実験を上越新幹線の長岡駅と新潟駅の間で開始した。 長岡駅の上越新幹線プラットフォームへと続く改札に据え付けられた顔認証改札機 ※クリックすると拡大画像が見られます 事前に募集した同区間の定期券(Suica FREXまたはSuica FREXパル)を持つモニター参加者の約500人が対象で、両駅の移動で顔認証改札機を使ってもらい、その効果検証や今後の改良に向けた問題点の洗い出しなどを行うことが目的。JR東日本では今後10年ほどをかけてウォークスルー改札を実現していく計画で、今回の実証実験はその一歩となる。 実証実験開始にあたり5日には報道関係者向けに顔認証改札機の事前公開が行われた。囲み取材に応じたJR東日本 新幹線統括本部新幹線電気ネットワーク部技術計画ユニットリーダーの恩田義行氏は「顔認証改札機の導入についてはずっと社内で検討してきており、昨年2024年12月に発表した『Suica Renaissance(ルネッサンス)』でも触れた『タッチするという当たり前を超える』というコンセプトでさまざまな技術を検証してきており、多くの荷物や切符を持って改札を通ることに不自由を感じるお客様の多い新幹線において非常に優位性が高い仕組みとして今回の実証実験を行っている」と述べている。 「Suica Renaissance」で触れられたウォークスルー改札に対するJR東日本の取り組み ※クリックすると拡大画像が見られます ウォークスルー改札の導入はメリットが大きい 顔認証改札はウォークスルー改札の本命? ウォークスルー改札はSuicaを置き換えるのか? ウォークスルー改札の導入はメリットが大きい ウォークスルー改札とは、改札を通過するだけで“検札”が完了する仕組みのことだ。かつて紙の切符時代には改札に駅員が常駐して切符にハサミを入れたり、券面をチェックしていたものが、やがて自動改札機が登場すると改札の投入口に磁気切符を投入するだけでよくなって人流がスムーズになった。 現在では交通系ICカードが主流となり、毎回切符を購入して改札機に投入するのではなく、何度も利用可能な“非接触”のICカードにあらかじめ残高をチャージしておくことで、改札機への“タッチ”で素早く通過するようになっている。 Suicaについては「1分間に60人が改札を通過できる」ことを念頭に設計が行われていることが知られており、大都市での朝夕の通勤・通学ラッシュにも耐えられる今日のシステムが成立している。 そしてJR東日本が今後10年で実現しようとしているウォークスルー改札とは、ここでいう“タッチ”や“事前チャージ”のような動作も必要なく、ただ利用者が改札を通過するだけで入場も出場も自動的に処理が行われ、利用分の請求が(後で)行われるようになる。 このメリットは2つある。1つは「ハンズフリー」での通過が可能になること。現在の改札機は“タッチ”または切符の挿入を前提としているため、必ず通過時に片手に切符やICカード、スマートフォンを持って、改札機に近付けなければいけない。 また最近ではスマートウォッチに交通系ICカードの機能を搭載可能なものが増えているが、腕時計を左手に付ける方が多いと思われる一方で、改札機が設置されてICカードを“タッチ”する読み取り部があるのは「右側」だ。つまり腕を器用に動かして“タッチ”しなければならない。その点「ハンズフリー」であれば、この手の動作は一切不要だし、特に大荷物を両手に抱えているときなどや雨の日で傘を持っているときなどは、そのありがたみを理解できるだろう。 実際、JR東日本が今回あえて新幹線で顔認証改札機の実証実験を行ったのも、大荷物を抱えた旅行者や、複数枚の切符を用意する必要があることの多い新幹線改札で慣れていない利用者が戸惑わないよう、そのメリットを強調することが狙いにある。 両手に荷物を抱えた状態でのウォークスルー改札はメリットが大きい ※クリックすると拡大画像が見られます メリットの2つ目は“事前チャージ”不要な点だ。今回の実証実験では「Suica定期券」の保持者がモニター参加条件のため直接リンクしないが、JR東日本では「Suica Renaissance」のコンセプトの中で「Suicaのあと払いサービス」の導入に触れている。現在はSuicaの仕組み上、残高を事前にICカードにチャージしておく必要があるが、今後は技術の進化によりICカードそのものに残高を持たせる必要はなく、「センターサーバ」などで集中管理が可能になる。つまり、1枚のSuicaというカードにこだわる必要はなく、集中管理された残高を使ってさまざまな方法で利用者はSuicaの仕組みを利用できるようになる。 改札通過はもちろん、店舗やオンラインでの買い物まで、Suicaカードではなく、“Suica”というサービスに紐付いた“ID”で残高は管理され、事前チャージした残高で買い物や乗り物を利用してもいいし、利用分をあとでクレジットカードのような形で請求されて支払う形でもいい。これにより、支払い時の残高不足に悩まされたり、残高の入ったSuicaを家に忘れたり紛失したりで一切使えなくなるといったこともない。加えて、この支払いの柔軟性によりサブスクリプションのような仕組みを鉄道で利用できたり、多く鉄道を使った利用客には割引サービスを適用したりと、さまざまな付加サービスが提供できる。 顔認証改札はウォークスルー改札の本命? ウォークスルー改札のメリットが大きいことは分かったが、これを実現する技術は複数存在する。要は、改札を通過するタイミングで「Suica ID」と利用者の紐付けが行えればいいわけだ。これにより、運賃課金に必要な公共交通機関での移動情報や、店舗での買い物の支払い情報など、認識した相手のSuica IDに対して処理を行えばいいということになる。 Suica IDとは一種のインターネットのサービスにおける「アカウント」のようなもので、従来はSuicaカードの1枚ごとに付与されていた番号が、個人単位に割り当てられたものと考えればいい。 これにより、例えばSuica IDと「顔情報」を紐付けて顔認証改札機を通り抜けた場合でも、Suica IDに紐付いたモバイルアプリを使って店舗決済を行った場合でも、請求自体は単一のSuica IDに対して行われる。つまりSuicaが「ID」というアカウント単位での管理に移行することで、さまざまなサービスの利用にあたってさまざまな支払い手段が利用できる。支払い手段が「Suica ID」へと紐付けさえ行われていればいいからだ。 ただ、Suica IDはデメリットもある。さまざまな支払い手段を利用できる点でメリットがあるものの、逆に事前に紐付け作業が必要であり、特に普段Suicaサービス利用を必要としない一見さんのような利用者や、訪日観光客で日本を頻繁に訪れるわけではない外国人などは、このSuica IDの紐付け作業をはじめ、利用開始自体が面倒なものとなる。Suica IDは便利である反面、あくまで「普段からSuicaサービスを使う利用者」を対象としたサービスというわけだ。 話をウォークスルー改札に戻すと、“ウォークスルー”を実現するためには事前の登録作業が必要になる。現在、ウォークスルー改札としては主に2つの技術が有力とされており、1つが今回のテーマでもある「顔認証」、もう1つが「本人証明を行うデバイスの所持」だ。 後者から説明すると、例えばスマートフォンなどでBluetooth(BLE)やUWB(Ultra Wide Band)の電波を発信するアプリを動作させておき、改札通過時にアプリが電波とともにSuica IDを情報を改札機に伝え、誰が改札を通過したのかを改札システムは理解するという流れだ。 駅は基本的に利用者でごったがえしており、もし今後こういった技術を使ったウォークスルー改札が登場した場合、同じようにSuica IDを発信する複数のアプリが狭いエリアに密集することになる。BLEやUWBはアプリが動作するデバイスを保持する利用者の“正確な”位置情報を改札機に伝えるもので、デバイスが通信できる状態でさえあれば、ポケットやカバンに入れたままであっても問題なく改札を通過できる。実際にBLEの仕組みを使ったウォークスルー改札が韓国のソウルなどで実証実験として進められていたりする。 一方の顔認証だが、Suica IDを自らデバイス上で発信可能なアプリとは異なり、顔情報は顔情報でしかなく、自らSuica IDを主張するような電波は発信しない。顔情報はSuica IDのシステムに事前に紐付けて登録しておく必要があり、顔認証改札機ではこの事前登録した顔情報を基にSuica IDの情報を参照する。今回の実証実験では、長岡駅の顔認証改札機はパナソニックコネクトが、新潟駅ではNECがそれぞれ顔認証技術を提供している。 一般に、顔認証の技術は方式が各提供ベンダーによって異なっており、顔情報として保存される「特徴点」の取り方も異なるため、本人照合に利用する保存されたデータに互換性はない。そのため、仕組みとしては事前に登録されたモニター参加者の顔写真をパナソニックコネクトとNECの2社のシステムに異なる形で特徴点情報として記録し、それぞれが担当した改札通過時にはそれぞれが保持する特徴点情報を使って本人確認を行い、問題なければJR東日本が管理する改札システムへとその旨を通知し、通行許可を出す。もしデータベースに合致する情報がない、仮にあったとしてもマスク等を深めに被ったり、下を向いてカメラに写る顔の特徴点情報が少なかった場合には「NG」と判断し、即座に警告を出す。 データベースに未登録の顔情報を持った人物が通過しようとした場合、すぐに警告が出る ※クリックすると拡大画像が見られます 顔認証改札機はデモンストレーションで何度か見ていたが、普通に通過するぶんには何の問題もなく、むしろ切符の出し入れや改札機へのタッチで手間取る隣の通常の改札群に比べ、非常にスムーズに通過できていた印象だ。 ウォークスルー改札に顔認証を使う場合の問題の1つとして、判定に時間がかかるとゲートが開くのに時間がかかったり、今回のケースでいえばNG判定を出すのが改札の通過後といった現象が起きてしまう。 そのため、判定時間を稼ぐために改札レーンを長めにとって歩行距離を長くしたり、今回のケースでいえば利用者が“改札機に近付く前から”判定を開始して(JR東日本によれば今回のケースでは1-2メートル程度)、改札に差し掛かるタイミングではすでに判定が終了しているようにする。後者の場合、判定するまでにカメラに複数の人物が写ってしまう問題があるが、誰が近付いてくるのか正確に捉えて必要な特徴点のみを抽出するので、例えば「カメラの撮影範囲内に顔情報を登録して通過OKの人物が含まれていたせいで、判定NGの人物が改札を通過してしまった」といったケースが防げるという。 もう1つ、この顔認証改札機のサービスはあくまで「普段からサービスを利用するリピーターを対象とした施策」という点にある。事前に顔情報の登録が必要であり、しかもそれが顔認証改札機で判定可能なレベルの品質であるという前提がある。例えば外国人旅行者が日本滞在中の多くの場面で、事前に“1つのサービスに登録した顔情報”で便利に旅程を終えたというならメリットを感じるかもしれないが、顔情報の登録をSuica以外を含む複数のサービスに登録しなければならないというのであれば、単に面倒臭い仕組みでしかない。 おそらくは、この手の顔認証を使うサービスはJR東日本のみならず、さまざまな会社が別々のサービスを立ち上げて提供しようとするため、顔情報はサービスごとに登録しなければならないだろう。沿線通勤者や通学者が一度登録した顔情報で普段からサービスを享受できるのであれば問題ないが、ヘビーユーザーではない一見の利用者に提供するものではないと考える。 ウォークスルー改札はSuicaを置き換えるのか? ウォークスルー改札が今後発展していくと、おそらく冒頭で触れたSuicaが本来想定していた「1分間に60人」といった条件は近いレベルでクリアできるのではないかと筆者は考える。一方で、ウォークスルー改札の性質を知らずに進入する利用者が少なからずいたり、判定NGのケースが少しでもあると流れを大きく遮断することになる。少なくとも事前に利用者への周知が必要だ。ウォークスルー改札の難点は、やはり事前に「Suica ID」など支払い情報への紐付けが必要な点にある。誰でも入手可能ですぐに利用を開始できたSuicaとは異なり、この点の周知が今まで以上に重要になる。 将来的にみて、Suicaという物理カードは縮小傾向に向かうと考えている。最近、鉄道各社がモバイルSuicaなどスマートフォンを使った利用方法への誘導を積極的に行っていることからも分かるように、物理カードはやがて少数派となり、今後はスマートフォンを中心としたサービスになる可能性が高い。スマートフォンを組み合わせることで提供可能なサービスは広がるため、やがて事業者によっては積極的に自社IDへとスマートフォンアプリを介した紐付けへと誘導するようになる。以後は紐付けたIDを使って各種優遇サービスを提供するようになり、おそらくはJR東日本もまたSuica IDで同様のパターンをたどるだろう。 Suicaのような交通系ICそのものが今後10年ですぐに消えるとは考えないが、ユーザーをIDで管理することが主流になるにつれ、改札を通過させるための手段には特にこだわらなくなり、その手段は多様化していく。結果として、駅の改札システムはさまざまな支払い手段が混在する状況が今後しばらくは続くのではないかというのが筆者の予想だ。利用者がその変化について行けるのかも含め、今後10年はさまざまな技術やサービスの過渡期になるだろう。 新潟駅に設置された顔認証改札機。従来の改札機に被せる形で設置されるタイプで、JR東日本によれば「利用者に圧迫感を与えない従来のスタイル ※クリックすると拡大画像が見られます Amazonで現在開催中のセールを見る Amazonのアソシエイトとして、CNET Japanは適格販売により収入を得ています。

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