ここ数年、受験者が右肩上がりに増えているのが公認会計士試験だ。難関資格ゆえ合格する人の方が圧倒的に少ないこの試験、特に社会人受験者のうち“不合格”となった人は、どのような道をたどるのだろうか。そのキャリアの可能性とは――。
CPAエクセレントパートナーズの齊藤慶三取締役資格取得支援事業本部長は、「現在の公認会計士試験の受験生の課題は、多くの受験生にとって、資格取得それ自体がゴールになってしまっていること」と指摘する。「資格試験の勉強を通じて得た知識をどう自らのキャリアに活かすか」を考えずに勉強を始め、ひたすら合格を目指す受験生が多いのだ。 「それで合格できればいいのですが、結果が出なかった場合にそれを『ゼロ』と捉えて落ち込んでしまう人が少なくありません。しかし実際には資格試験の勉強で学んだ内容は、営業職など他のキャリアでも十分に活かせるものです」(齊藤取締役)「合格者のキャリアフィールドと近い領域にも、監査法人におけるアシスタント業務やアドバイザリー業務など、公認会計士の資格がなくても携わることができる仕事はたくさんあります。企業の経理部門も会計を学んできた人には相性が良い仕事ですし、スタートアップ企業で会計を担当し、IPOを目指すといった活かし方もあります」(中園本部長) 近年はアウトソーサーとして、企業の会計処理を請け負う会社も増えている。NTTグループや東急不動産グループでは、グループ企業内で共通する経理など間接部門の業務を一つの会社に集約するシェアードサービス会社をグループ内に抱えている。 「世の中では会計ファイナンス人材が慢性的に不足しています。一方、受験生の中には、試験では力を発揮できなかったけれども知識量や実務経験は豊富という人もいます。これまで多くの企業は、公認会計士試験の受験生の中にそうした優秀な人材がいることに気づいていませんでした。しかしCPAエクセレントパートナーズでは、そうした人材にも大きな価値があると考え、グループ内のエージェントを通じて積極的に企業へ紹介してきました。その結果、ここ4年ほどで新たな会計ファイナンス人材マーケットが生まれています」(同)「ただし受験生とひとくくりに言っても、あと1点で合格を逃した人と、勉強を始めてすぐに諦めてしまった人とでは大きな差があります。それをどう企業に伝えていくかがポイントです」(中園本部長) 公認会計士試験では受験者に自身の得点が開示されるので、本人がそれを転職や再就職の際に履歴書へ添えることが可能だ。一方、人材紹介の際にはエージェントが「どの程度まで学習を進めていたか」を企業側に正確に伝えることが重要になる。「今後数年間にわたり実施される試験制度改革により、短答式の一次試験の合格率が上がり、二次試験の合格率が下がるので、『一次試験のみ合格した人』という新たな人材プールが生まれてきます。そこには企業にとって有用な人材が多く存在するはずであり、CPAとしても、そうした層の価値を広く企業へ周知していきたいと考えています」(同)会計ファイナンス分野の公認会計士試験以外の資格試験としては、税理士試験、簿記検定試験1~3級があり、それぞれビジネスの世界で確固としたポジションを得ている。ただいずれも会計分野全体を体系的に学ぶことを意図した資格ではない。U.
S.CPAは米国各州が認定する公認会計士資格だが、世界的に認められた国際資格でもある。国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US-GAAP)についての知識が求められ、経済のグローバル化の中で日本においてもニーズが高まっている。 「公認会計士、税理士といった独占資格が必要な職種以外にも、会計ファイナンスの知識を活かせる仕事は多いのです。例えば監査法人では、監査業務以外にアドバイザリー業務なども行っており、その分野でU.S.CPAの資格を持って活躍している人は20年以上前からいます」(齊藤取締役) 日本会計基準から米国会計基準へのコンバージョン業務や、日本のグローバル企業の経理部門、あるいは海外子会社の経理など国際会計に関連する業務も、U.S.CPA取得者が活躍できる場である。グローバル企業に勤務する日本人社員がU.S.CPA試験に合格すれば、そうした国際業務に携われる可能性が拓けてくるし、外資系企業の経理・財務部門で働く人やIT関連企業で会計システムを扱うエンジニアなどにとっても、U.S.CPAはキャリアに「箔」をつけることができる公的な資格といえる。「U.S.CPAはおおむね1,000~1,500時間の学習で合格可能とされており、日本の公認会計士試験に比べて短期間で挑戦できます。また公認会計士試験が相対評価で上位何パーセントかが合格する仕組みであるのに対し、U.S.CPAは絶対評価で、合格基準に設定された一定の得点以上を獲得すれば必ず合格できるので、受験生にとっては安心感があります」(同) U.S.CPAの試験は4科目構成だが、1科目ずつ合格していけばよく、日本の公認会計士試験のように「3年間で全科目に合格しなければならない」という制限はない。時間のない社会人でも、段階的に合格を積み上げることができる。1科目合格するごとに履歴書へその旨を記載できる点も、社会人にとってのメリットだ。 ただし試験は英語で実施されるため、一定の英語力が求められる。目安として、TOEICリーディングスコアで495点中の370点以上が必要とされる。もっともU.S.CPAではリスニング問題は出題されないため、「英語のリーディングには自信があるが、ヒアリングやトーキングは苦手」という人にはねらい目ともいえる。 社会人として働きながら会計ファイナンスの知識を体系的に身につけたい人にとって、U.S.CPAは魅力的な資格試験といえそうだ。そうした事情を鑑み、CPA会計学院でも2023年度からU.S.CPA講座の提供を開始している。CPA会計学院では、2025年11月末から新たに「CMA(Certified Management Accountant)」という講座を開講予定だ。 U.S.CMAは名称的にU.S.CPAと紛らわしいが、企業の意思決定の材料となる管理会計についての資格で、英語の試験ではあるものの科目数は2科目と少なく、難易度もやや下がる。経営の意思決定や投資判断、組織の人材評価などに役立つ知識を体系的に身につけることができるため、管理職や経営幹部を目指す人に適した資格であり、将来的にはTOEICのように「管理職に就くための必須資格」として認知される可能性もありそうだ。会計が過去の取引や帳簿付けを中心とした業務であるのに対し、ファイナンス(財務)は事業計画に合わせて資金を調達・運用する未来志向の業務だ。 「今後は日々行うような単純な会計処理は、AIやクラウド会計ソフトによって簡便に行えるようになります。大企業の海外子会社との取引のように複雑な会計業務では依然として専門家の関与が不可欠ですが、比較的ライトな業務についてはAIで完結するケースが増えていくでしょう。過去を扱う会計業務は自動化が進み、人間はその分、未来を見据えた事業戦略の構想や意思決定にシフトしていく。その中でファイナンス業務の重要性は一層高まっていくと考えられます」(同) お金の流れがあるところには必ずファイナンスが存在する。公認会計士の今後の活躍のフィールドは、そうした財務・ファイナンス方面が中心となりそうだ。その意味ではもはや「公認会計士」という名前そのものが実態と合わなくなってしまったのかもしれない。 また、公認会計士にかかわらず、ビジネスパーソンが今後確固たるキャリアを形成するためには会計ファイナンスを学び、身につけることが必須といえる。「公認会計士試験は自分とは縁遠い話」と考える人も、ぜひそのことを忘れないでほしい。
