今必要なのは“女性性”的リーダーシップ! 女性史月間に、ウェルビーイングの視点で幸福な社会について考える

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今必要なのは“女性性”的リーダーシップ! 女性史月間に、ウェルビーイングの視点で幸福な社会について考える
ジェンダー / Gender前野隆司 / Takashi Maeno女性史月間 / Women's History Month
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「皆が幸せになるために今必要なのは、女性性を活かしたリーダーシップ」。そう語るのは、幸福学の専門家・前野隆司だ。分断から統合へ、戦いから利他へ。女性史月間である3月に、女性性的な思考が導く幸福な社会についてを考察する。

「科学でわかっているものを活かしてものづくりをするのがエンジニアという仕事です。だったら、人の役に立ち、人々を幸せにするものづくりをしたいと思ったんです」。そう語るのは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、そして武蔵野大学ウェルビーイング学部教授の前野隆司だ。もともとロボット研究に取り組んでいた前野は、2008年に幸福学の扉を開いた。以来、エンジニアリングのアプローチを軸に、心理学や統計学などの科学的知見を取り入れた「幸せをデザインする方法論」を追究し続けている。 そして2024年には“世界初”といわれるウェルビーイング学部が武蔵野大学に誕生。現在、その学部長を務める前野は次世代のウェルビーイング人材の育成に力を注ぐ。「これまでの科学や心理学でわかっている“幸せの条件”を活かし、人々が本当に幸せになれる製品やサービス、街づくりを考える。それこそが僕のエンジニアリングなんです」──その言葉には、未来の幸福社会をデザインする確固たる信念がにじむ。 “女性性”=許容や共感を重視するスタイル 果たして、今の日本社会は幸せだろうか? 3月8日の国際女性デーを前に、ジェンダーの視点でみていくと、日本のジェンダーギャップ指数は、2024年版レポートで146 カ国中118位。性被害に関する報道はあとを絶たず、旧態依然のルールや慣習が生むハラスメントに遭遇すると、幸せとは程遠いのではないか─と天を仰ぎたくなることもある。一方で、前野は課題を見据えつつも社会が前進している部分にも注目する。「昔はセクハラは闇に葬られていましたが、今は行政指導や罰則が定められています。また、うつ病が増えたから今の時代は良くないと言う人はいますが、昔はうつ病というものがあまり解明されていなかったから、仮面うつは診断されていませんでした。ですから皆が思う以上に世の中は良くなってきており、私は現代社会は幸せだと思います」と話す。 そしてジェンダー平等な社会の鍵を握るのは、「女性性」だと考察する。「男性性と女性性という言葉がありますが、従来の男性社会でみられる権威型リーダーは、ハラスメントが起きるケースも多かった。ところが最近は『優しく、みんなの話を聞いて、みんなが幸せになるような調和型のリーダーシップ』が注目され始めていて、これこそ日本が目指すべきところじゃないかと思っています。若い世代はすでにそこに気づき始めていて、ハラスメントが残る会社をすぐに辞める傾向があります。そうすると会社は立ち行かなくなり、適切にやっていかないと自然淘汰される時代にきているのです」 前野は“女性的なリーダーシップ”を「説明や許容、共感を重視するスタイル」と定義しつつ、一方でそこを履き違えて「男性と同じように働け」という方向に突き進めば、女性も不幸になってしまうと警鐘を鳴らす。「女性の管理職登用が進む中、男性的な競争社会そのままに女性を巻き込むと、疲弊を生むだけ。女性が本来持っている良い意味でのコミュニケーション能力や調和を活かしてこそ、本当に皆が幸せになる社会がつくれるのではないでしょうか」 先にもあるように、国際比較で見ると日本の男女格差は低水準だが、幸福度を測ると、女性のほうが男性より幸せという奇妙な結果も出ているという。前野はこう分析する。 「差別は確かにあります。でも、女性はそこをうまく支え合って幸せを導き出している気がします。男性はむやみに出世を目指して孤立してしまうケースが多い。一方、女性は女性同士でコミュニケーションを取って支え合える。その結果が、『差別はあるのに女性のほうが幸せ』という不思議な構図を生んでいると思うんです」。さらに前野は、「やはり基本的に、コミュニケーションを取るほうが幸せ」と強調する。「『女性が多く入っている会議は時間がかかる』と発言した政治家が過去にいましたが、実はそれが幸福度に大きく寄与しているのです」 目指すは“分断”から“統合”の社会へ 前野が描く最終的な理想像を一言でまとめると、「分断の社会から統合の社会へ」という大転換にほかならない。「これまで資本主義は分断と競争で成り立ってきましたが、今、世界は利己的な争いの限界を迎えています。感謝や協力といった“利他”にシフトしないと、格差や環境破壊、戦争などの問題が解決しない。これは女性性に根ざした調和型リーダーシップとも繋がっています。要するに、皆で話し合って、皆で幸せになろうというスタンスのほうが、長期的に見ても絶対にいいのです」 前野が考える日本の10年後について尋ねると、大胆な期待を込めてこう語った。「明治維新のような変革が起きるのでは、と思っています。ウェルビーイングの世界にシフトし、日本に優しい女性首相が現れるといいですよね。今は幸福度の低さや女性差別など悪い面が目立ちますが、賢い国民なので、いったん気づいたら一気に『世界一幸せな国』に転じる可能性はあります。日本はかつて“倭の国”と呼ばれていた。なよなよして女々しい国という意味だけれど、そこには実は女性性の強さがあったのでは、と思うんです。そもそも平和や調和を重んじるDNAがある国だから、その本質を取り戻せれば、10年後には今の閉塞感から解放されているかもしれない。僕はその可能性を信じています」 戦いの社会から利他の社会へ、分断から統合へ─。これは壮大なパラダイムシフトだが、小さな行動の積み重ねからも始められると言う。 「感謝をする、ネガティブな言葉を少しだけやめてみる、反射的に怒らず深呼吸するなど、最初は本当に小さな習慣からでいいんです。それが積み重なると周りの人間関係が良くなり、『じゃあ次は街づくりを変えてみよう』『企業変革を起こそう』『ボランティアをしよう』という発想に広がっていく。今の日本には、そのきっかけを求めている人がたくさんいると思います」 前野が提示するその道筋は、決して遠い未来の夢物語ではない。私たち一人ひとりの行動から始まる確かな希望に満ちた“幸福な社会”が待っている。 前野隆司/TAKASHI MAENO 武蔵野大学ウェルビーイング学部学部長。1962年、山口県生まれ、広島県育ち。東京工業大学(現・東京科学大学)卒業後、同大学大学院修士課程修了。キヤノン、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。 写真・GION 文・大庭美菜 編集・橋田真木(GQ).

「科学でわかっているものを活かしてものづくりをするのがエンジニアという仕事です。だったら、人の役に立ち、人々を幸せにするものづくりをしたいと思ったんです」。そう語るのは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、そして武蔵野大学ウェルビーイング学部教授の前野隆司だ。もともとロボット研究に取り組んでいた前野は、2008年に幸福学の扉を開いた。以来、エンジニアリングのアプローチを軸に、心理学や統計学などの科学的知見を取り入れた「幸せをデザインする方法論」を追究し続けている。 そして2024年には“世界初”といわれるウェルビーイング学部が武蔵野大学に誕生。現在、その学部長を務める前野は次世代のウェルビーイング人材の育成に力を注ぐ。「これまでの科学や心理学でわかっている“幸せの条件”を活かし、人々が本当に幸せになれる製品やサービス、街づくりを考える。それこそが僕のエンジニアリングなんです」──その言葉には、未来の幸福社会をデザインする確固たる信念がにじむ。 “女性性”=許容や共感を重視するスタイル 果たして、今の日本社会は幸せだろうか? 3月8日の国際女性デーを前に、ジェンダーの視点でみていくと、日本のジェンダーギャップ指数は、2024年版レポートで146 カ国中118位。性被害に関する報道はあとを絶たず、旧態依然のルールや慣習が生むハラスメントに遭遇すると、幸せとは程遠いのではないか─と天を仰ぎたくなることもある。一方で、前野は課題を見据えつつも社会が前進している部分にも注目する。「昔はセクハラは闇に葬られていましたが、今は行政指導や罰則が定められています。また、うつ病が増えたから今の時代は良くないと言う人はいますが、昔はうつ病というものがあまり解明されていなかったから、仮面うつは診断されていませんでした。ですから皆が思う以上に世の中は良くなってきており、私は現代社会は幸せだと思います」と話す。 そしてジェンダー平等な社会の鍵を握るのは、「女性性」だと考察する。「男性性と女性性という言葉がありますが、従来の男性社会でみられる権威型リーダーは、ハラスメントが起きるケースも多かった。ところが最近は『優しく、みんなの話を聞いて、みんなが幸せになるような調和型のリーダーシップ』が注目され始めていて、これこそ日本が目指すべきところじゃないかと思っています。若い世代はすでにそこに気づき始めていて、ハラスメントが残る会社をすぐに辞める傾向があります。そうすると会社は立ち行かなくなり、適切にやっていかないと自然淘汰される時代にきているのです」 前野は“女性的なリーダーシップ”を「説明や許容、共感を重視するスタイル」と定義しつつ、一方でそこを履き違えて「男性と同じように働け」という方向に突き進めば、女性も不幸になってしまうと警鐘を鳴らす。「女性の管理職登用が進む中、男性的な競争社会そのままに女性を巻き込むと、疲弊を生むだけ。女性が本来持っている良い意味でのコミュニケーション能力や調和を活かしてこそ、本当に皆が幸せになる社会がつくれるのではないでしょうか」 先にもあるように、国際比較で見ると日本の男女格差は低水準だが、幸福度を測ると、女性のほうが男性より幸せという奇妙な結果も出ているという。前野はこう分析する。 「差別は確かにあります。でも、女性はそこをうまく支え合って幸せを導き出している気がします。男性はむやみに出世を目指して孤立してしまうケースが多い。一方、女性は女性同士でコミュニケーションを取って支え合える。その結果が、『差別はあるのに女性のほうが幸せ』という不思議な構図を生んでいると思うんです」。さらに前野は、「やはり基本的に、コミュニケーションを取るほうが幸せ」と強調する。「『女性が多く入っている会議は時間がかかる』と発言した政治家が過去にいましたが、実はそれが幸福度に大きく寄与しているのです」 目指すは“分断”から“統合”の社会へ 前野が描く最終的な理想像を一言でまとめると、「分断の社会から統合の社会へ」という大転換にほかならない。「これまで資本主義は分断と競争で成り立ってきましたが、今、世界は利己的な争いの限界を迎えています。感謝や協力といった“利他”にシフトしないと、格差や環境破壊、戦争などの問題が解決しない。これは女性性に根ざした調和型リーダーシップとも繋がっています。要するに、皆で話し合って、皆で幸せになろうというスタンスのほうが、長期的に見ても絶対にいいのです」 前野が考える日本の10年後について尋ねると、大胆な期待を込めてこう語った。「明治維新のような変革が起きるのでは、と思っています。ウェルビーイングの世界にシフトし、日本に優しい女性首相が現れるといいですよね。今は幸福度の低さや女性差別など悪い面が目立ちますが、賢い国民なので、いったん気づいたら一気に『世界一幸せな国』に転じる可能性はあります。日本はかつて“倭の国”と呼ばれていた。なよなよして女々しい国という意味だけれど、そこには実は女性性の強さがあったのでは、と思うんです。そもそも平和や調和を重んじるDNAがある国だから、その本質を取り戻せれば、10年後には今の閉塞感から解放されているかもしれない。僕はその可能性を信じています」 戦いの社会から利他の社会へ、分断から統合へ─。これは壮大なパラダイムシフトだが、小さな行動の積み重ねからも始められると言う。 「感謝をする、ネガティブな言葉を少しだけやめてみる、反射的に怒らず深呼吸するなど、最初は本当に小さな習慣からでいいんです。それが積み重なると周りの人間関係が良くなり、『じゃあ次は街づくりを変えてみよう』『企業変革を起こそう』『ボランティアをしよう』という発想に広がっていく。今の日本には、そのきっかけを求めている人がたくさんいると思います」 前野が提示するその道筋は、決して遠い未来の夢物語ではない。私たち一人ひとりの行動から始まる確かな希望に満ちた“幸福な社会”が待っている。 前野隆司/TAKASHI MAENO 武蔵野大学ウェルビーイング学部学部長。1962年、山口県生まれ、広島県育ち。東京工業大学(現・東京科学大学)卒業後、同大学大学院修士課程修了。キヤノン、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。 写真・GION 文・大庭美菜 編集・橋田真木(GQ)

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