ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文氏の生い立ちから、研究者としての歩み、そして現代人の免疫力に対する考え方までを追う。滋賀県びわ村で育ち、美術を志すも、最終的に医学の道へ。周囲に流されず、独自の視点で研究を続け、制御性T細胞の発見につなげた。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した 坂口志文 さん(74)が生まれたのは 滋賀県 びわ村(現長浜市)。琵琶湖に流れ込む姉川の近くで豊かな自然に囲まれ、伸び伸びと育った。琵琶湖畔までは自転車で15分程度で、よく遊びに行った。3人兄弟の真ん中で、父親は高校教師。中学時代は美術部に所属し、絵描きになるのが夢だった。文学全集を読みふけるなど、理系も文系も満遍なく好成績の優等生。母親の家系は医師が多く、理系を勧められ京都大医学部に進学した。思い切った転身だが「当時は学園紛争が終わって、次の秩序が定まっていない時代。別のことを始めるのに抵抗はなかった。本当に興味を持てることを探していた。自分探しをしていたのでしょう」 京大に戻った後、米国に留学。スタンフォード大、カリフォルニア大など4つの研究所を転々とした。帰国後は2つの機関を経て平成11年、京大再生医科学研究所の教授に。ここで初めて、10年以上にわたって腰を落ち着けた。「どちらかというと鈍感なタイプ。あまり周りのことは気にならない」。研究仲間から「うどんのような神経」とからかわれたことも。しかし、鈍感さは、ときに強さにもなる。異端の研究だった 制御性T細胞 の存在を確信し、発見につなげたのは、周囲の評価や環境に振り回されることなく、集中力を保ち続けることができたからだろう。「絵画は印象派や宗教画など、時代によって物の見方は変わる。新しいものは最初は批判されるが、そのうちそれが常識になり、また次の見方が出てくる。サイエンスと似ている。真実は時代ごとにある」基本に返る食べ物の好き嫌いは特にないが、40代になってから、クッキーなどバターの入った食品を食べると、アレルギー症状が出るようになった。そんな経験もあって、現代人が免疫力を鍛える必要性を説く。 「子供の頃、クラスに花粉症の子はほとんどいなかった。今や研究室の学生も、多くが花粉症になっている。現代人は清潔過ぎるくらい、清潔な環境で暮らしている。最近50年のアレルギー疾患の増加は、遺伝子が変わったのではなく、免疫力が鍛えられなくなっていることが影響しているのではないか」「理科系の方が手に職をつけられるので、苦労しなくて済むと思ったのでしょう。そこで妥協点をとって、精神科の医者になろうと思った。それなら親も文句を言うまいと。京大の精神科は実存分析など哲学的なこともやっていたので、行くことにした」「血液は傷ができると出血して、そこで固まる必要がある。しかし血管の中で固まったら病気になってしまう。固まる、固まらないという二律背反的な現象の後ろに生物学的な神秘があると漠然と考えていた」研究生活を送るようになっても、ギリシャ哲学の田中美知太郎の本をときどき読む。「ものの考え方を学ぶという意味で好きだ」。物理学者で哲学的な考察でも知られる渡辺慧(さとし)の著書も好きだという。.
ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文さん(74)が生まれたのは滋賀県びわ村(現長浜市)。琵琶湖に流れ込む姉川の近くで豊かな自然に囲まれ、伸び伸びと育った。琵琶湖畔までは自転車で15分程度で、よく遊びに行った。3人兄弟の真ん中で、父親は高校教師。中学時代は美術部に所属し、絵描きになるのが夢だった。文学全集を読みふけるなど、理系も文系も満遍なく好成績の優等生。母親の家系は医師が多く、理系を勧められ京都大医学部に進学した。思い切った転身だが「当時は学園紛争が終わって、次の秩序が定まっていない時代。別のことを始めるのに抵抗はなかった。本当に興味を持てることを探していた。自分探しをしていたのでしょう」 京大に戻った後、米国に留学。スタンフォード大、カリフォルニア大など4つの研究所を転々とした。帰国後は2つの機関を経て平成11年、京大再生医科学研究所の教授に。ここで初めて、10年以上にわたって腰を落ち着けた。「どちらかというと鈍感なタイプ。あまり周りのことは気にならない」。研究仲間から「うどんのような神経」とからかわれたことも。しかし、鈍感さは、ときに強さにもなる。異端の研究だった制御性T細胞の存在を確信し、発見につなげたのは、周囲の評価や環境に振り回されることなく、集中力を保ち続けることができたからだろう。「絵画は印象派や宗教画など、時代によって物の見方は変わる。新しいものは最初は批判されるが、そのうちそれが常識になり、また次の見方が出てくる。サイエンスと似ている。真実は時代ごとにある」基本に返る食べ物の好き嫌いは特にないが、40代になってから、クッキーなどバターの入った食品を食べると、アレルギー症状が出るようになった。そんな経験もあって、現代人が免疫力を鍛える必要性を説く。 「子供の頃、クラスに花粉症の子はほとんどいなかった。今や研究室の学生も、多くが花粉症になっている。現代人は清潔過ぎるくらい、清潔な環境で暮らしている。最近50年のアレルギー疾患の増加は、遺伝子が変わったのではなく、免疫力が鍛えられなくなっていることが影響しているのではないか」「理科系の方が手に職をつけられるので、苦労しなくて済むと思ったのでしょう。そこで妥協点をとって、精神科の医者になろうと思った。それなら親も文句を言うまいと。京大の精神科は実存分析など哲学的なこともやっていたので、行くことにした」「血液は傷ができると出血して、そこで固まる必要がある。しかし血管の中で固まったら病気になってしまう。固まる、固まらないという二律背反的な現象の後ろに生物学的な神秘があると漠然と考えていた」研究生活を送るようになっても、ギリシャ哲学の田中美知太郎の本をときどき読む。「ものの考え方を学ぶという意味で好きだ」。物理学者で哲学的な考察でも知られる渡辺慧(さとし)の著書も好きだという。
