●第64次南極地域観測隊隊長 伊村智(いむらさとし)さん 伊村さんは1960年生まれの62歳、南極や北極などの極地を研究する、国立極地研究所に勤めています。 日本の観測隊としてこれまでに4回(第36次越冬隊、42次夏隊、45次越冬隊、49次夏隊)、その他イタリア、アメリカ、ベルギーの観測隊にも参加し、南極に行くのは今回の64次で8回目です。 第49次でも隊長を務めていて、隊長として南極に行くのは今回が2回目。第64次南極地域観測隊は隊員76人、同行者19人。研究者をはじめ、技術者や医者、料理人などありとあらゆる分野のプロフェッショナルが集まっています。この全員を束ねるのが伊村隊長なのです。 ●コケの研究者 南極で新種を発見、コケボウズとの出会い 伊村さんが初めて南極に行ったのは34歳の時、第36次南極地域観測隊の越冬隊としてでした。 広島大学出身の伊村さんは、国立極地研究所で働く大学の先輩に南極のコケの研究に誘われたことがきっかけで南極に行くことになりました。 意外にも、特に南極を目指していたわけではなく「せっかくだし行ってみるか」といった気持ちだったそうです。 そんな初めての南極で、ゴムボートを浮かべ湖を観察していた時に、水中に不思議な塊を発見します。深さ3mほどの湖底に、今までに見たことの無い大きさのコケの群落を見つけたのです。伊村さんはこのコケを一生調べ尽くそうと決心したといいます。坊主頭に似ているからという理由で伊村さんは「コケボウズ」と命名しました。コケボウズは、コケが積み重なり80cmほどでちょうど人が座ったような形と大きさをしています。水が潤沢にあり、コケを食べる動物のいない南極の湖だからこそ、ここまで大きく成長したと考えられています。 コケへの愛情を語るとき、伊村さんの目は輝いています。ご自身の発案で「コケボウズ」のオリジナルキャラクター、「コケ坊」を作るほどです。ちなみにこのキャラクターは非売品だそうです。 せっかくだし、という気持ちで行った伊村さんにとって初めての南極。太陽のオレンジに染まる氷山、どこまでも広がる真っ白な氷原、緑がなく、岩だけが転がる火星のような露岩域。ここでしか見られない景色を目の当たりにするうちに虜になり「南極の仕事をずっとしていこう」と伊村さんは決意しました。 ●若手隊員が集まる隊長室 夕食後の夜の自由時間、「じゃあ、隊長室集合で」という声があちらこちらで聞こえます。 隊員達が好きなお菓子や飲み物を持ち寄り、伊村さんの部屋に集まってくるのです。 私が皆さんに伊村さんには許可をもらっているのかと聞くと。 「言ってないけどいつもこんな感じ。『隊長おじゃまします!』と言って、おしゃべりをしに行きます」と。 私はそんな事をして隊長に失礼じゃないのかと思いながら、恐る恐る隊長室をのぞいてみました。するとそこには、若手からベテラン隊員が集まる部屋の真ん中に、誰よりも嬉しそうに座る伊村さんの姿が。南極の話はもちろん、それぞれの仕事や研究の話、家族の話、時には失恋の話など、笑顔で聞き入っていました。 私自身も「こんな映像が撮りたい」といった相談から、お互いの好きな本の話まで、色々なことをざっくばらんにお話させて頂いています。そんな話をしている間にも次から次へ隊員がやってきます。観測隊のメンバーは分野だけでなく年齢もさまざまです。隊長の周りには、気が付けば世代を越えた話の輪ができます。まるで自然と人が集まってくる暖かい暖炉のように。 「全く違う分野の人たちが旅を共にし、時間を共有するというのは、南極観測隊でしかできない。そんな人たちからいろいろな話を聞くのは楽しくて仕方がない」と伊村さんは話します。 私も今や隊長室に押し寄せる隊員の一員になってしまいました。船の生活では携帯の電波はもちろんつながりません。日本にいれば携帯をいじってあっという間に費やしてしまう夜のひと時、携帯の通信に邪魔されず、相手とじっくり話すひと時がとても貴重だとこの船旅で感じています。 ●最後の南極 34歳の時に初めて南極に行った伊村さん、人生の半分を南極に費やしてきました。 ただ、「今回の南極が最後」だと言います。私が最後の南極はどういう思いですか、寂しいですかと聞くと。 「もうこの年だし十分。隊長としての役割はとにかく全員無事に任務を終えること」と笑顔で、でも少しだけ寂しそうに語っていました。 そんな伊村さん。今後の夢は、 「南極に住んで美しい景色に囲まれながら、基地にある小屋の番人として日本から来る隊員を毎年迎えること」 だそうです。 伊村さん率いる第64次南極地域観測隊は、11月11日に日本を出港しました。オーストラリアのフリマントルに寄港し今は嵐の南大洋を航行中です。12月末には南極の昭和基地へ到着し、温暖化により氷が溶け
私はそんな事をして隊長に失礼じゃないのかと思いながら、恐る恐る隊長室をのぞいてみました。するとそこには、若手からベテラン隊員が集まる部屋の真ん中に、誰よりも嬉しそうに座る伊村さんの姿が。南極の話はもちろん、それぞれの仕事や研究の話、家族の話、時には失恋の話など、笑顔で聞き入っていました。 私自身も「こんな映像が撮りたい」といった相談から、お互いの好きな本の話まで、色々なことをざっくばらんにお話させて頂いています。そんな話をしている間にも次から次へ隊員がやってきます。観測隊のメンバーは分野だけでなく年齢もさまざまです。隊長の周りには、気が付けば世代を越えた話の輪ができます。まるで自然と人が集まってくる暖かい暖炉のように。私も今や隊長室に押し寄せる隊員の一員になってしまいました。船の生活では携帯の電波はもちろんつながりません。日本にいれば携帯をいじってあっという間に費やしてしまう夜のひと時、携帯の通信に邪魔されず、相手とじっくり話すひと時がとても貴重だとこの船旅で感じています。「もうこの年だし十分。隊長としての役割はとにかく全員無事に任務を終えること」と笑顔で、でも少しだけ寂しそうに語っていました。.
私はそんな事をして隊長に失礼じゃないのかと思いながら、恐る恐る隊長室をのぞいてみました。するとそこには、若手からベテラン隊員が集まる部屋の真ん中に、誰よりも嬉しそうに座る伊村さんの姿が。南極の話はもちろん、それぞれの仕事や研究の話、家族の話、時には失恋の話など、笑顔で聞き入っていました。 私自身も「こんな映像が撮りたい」といった相談から、お互いの好きな本の話まで、色々なことをざっくばらんにお話させて頂いています。そんな話をしている間にも次から次へ隊員がやってきます。観測隊のメンバーは分野だけでなく年齢もさまざまです。隊長の周りには、気が付けば世代を越えた話の輪ができます。まるで自然と人が集まってくる暖かい暖炉のように。私も今や隊長室に押し寄せる隊員の一員になってしまいました。船の生活では携帯の電波はもちろんつながりません。日本にいれば携帯をいじってあっという間に費やしてしまう夜のひと時、携帯の通信に邪魔されず、相手とじっくり話すひと時がとても貴重だとこの船旅で感じています。「もうこの年だし十分。隊長としての役割はとにかく全員無事に任務を終えること」と笑顔で、でも少しだけ寂しそうに語っていました。
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