絢爛豪華なキャストがメトロポリタン美術館に集結する、コスチューム・インスティテュートの展覧会。今年は、「華麗なるブラック・スタイル」というテーマを、喜びに満ちた服の力、そして社会や政治を大きく変える重要なツールとして描く。ジェレミー・O・ハリスが展覧会をナビゲートしながら、“格好良く見せること”を追求してきた自身の人生を振り返る。
私が席に座ると、「坊や、格好良いね!」とカメラマンが言った。私は満面の笑みを浮かべ、母にしがみついたことを覚えている。「ママが選んだんだ!」と私はスーツと蝶ネクタイを示して言った。すると、その場の空気が変わった。J.C.ペニーの写真スタジオにいた全員が、輝くような笑顔を見せる母に目を向けた。当時、母は21歳。私たちは家族写真を撮るために母一人、子一人で来ていた。それまでの、どこか気まずい同情するような視線が消える。私が「格好良く」見えることが、親がちゃんと子育てをしていることを周囲に伝えるすべだった。 「見かけ」はときとして、印象を操作し書き換えるツールに 私がダンディ、つまり高級品を誇らしげに身に纏い、周囲の人々に畏敬の念を抱かせるような男になった経緯を教えてほしいと頼まれたとき、自分を最も長い間知っている母に電話をかけた。それから二人で家族写真を見返し、私がこれまでに着たすべての服装を詳しく分析するという面倒な作業に取りかかった。最初に気づいたのは、赤子から魔の2歳児へと成長するにつれて起きた変化だ。私は、にこにこと笑うぽっちゃりした乳児から、スーツとネクタイを身につけてにこにこと笑う幼児へと成長した。私は母に尋ねた。なぜ、3歳のときに撮った写真で、自分は蝶ネクタイをしているのか、と。その写真は私が物心ついたときからずっと、祖母の家に飾ってあったものだ。 彼女はしばらく考えた後、J.
C.ペニーを訪れた日に起きた出来事を聞かせてくれた。これまでの人生で、私は幾度となく身なりで判断されてきて、母が語ったエピソードは、さまざまな記憶をはっきりと呼び起こした。人は見かけや身につけているもので相手を判断し、自分が思うその人の人物像や物語を、頭の中でリアルタイムでつくりあげる。そして身につけるものは、ときとして相手の自分に対するイメージを書き換えることもできる。つまり「ダンディ」とは本質的に、「ダンディズム」を広めた(黒人)コミュニティに対して世間が持つ認識や確立された物語を書き換える存在のことなのだ。 メトロポリタン美術館で開催される、コスチューム・インスティテュートの今年の展覧会「Superfine:Tailoring Black Style(華麗なるブラック・スタイル)」の会場をぶらつきながら、歴史上のブラック・ダンディたちに捧げられた展示を見ていると、18世紀から現在に至るまで繰り返し語られてきた物語が、痛ましいほど変わっていないことに気づく。それは、自分自身であれ他者であれ、「誰かに尽くす」ことを描いた物語だ。所有者の地位を示すために贅沢な生地を使った服を着せられ、銀の首輪をはめられた奴隷の少年たちから、「トラックスーツ」を着た汗まみれの労働着から、富と余裕を誇示し、羨望の眼差しを集めるファッションへと書き換えた男たちまで、それは変わらない。 私もそれこそ子どもの頃から、物語を書き換えていた。『ライフ』誌の写真に写る伝統的黒人大学(HBCU)の男子学生がそうしていたように。彼らの靴は、新品のように真っ白だ。バージニア州の私立学校(黒人の子どもたちが富裕層の集まる公立学校区に編入し始めた1968年に設立された学校)の廊下を歩くとき、私は服装を通じて、自宅が安全で家族も私もちゃんとしていることを表現しなければならなかった。 私の服装はただきちんとしているだけでなく、凝っていた。着飾るには時間と安全な環境が必要であり、母はその両方を与えてくれていた。私はクラスメートに、たとえシングルマザーの子であっても自分で自分の世話ができているのだと無言で訴えていたのだ。一筋の乱れもなくコーンロウに編み込んだヘアスタイルと、新品のように見えるトミー ヒルフィガーのチノパンツにヴィンテージのエルメスのベルトを合わせたスタイルが発信したのはそういうメッセージだ。 ファッションにおけるダンディズムの確立 19世紀に被写体として最も多くの写真を残した米国人、フレデリック・ダグラスは自分の人生の出来事を職人に彫刻させた杖を持っていた。それは奴隷時代から始まり、その後、船乗りの制服で変装して逃亡し、奴隷の身分から自由になって新たな物語をスタートさせるという、一連の出来事を描いたものだ。彼が逃げ出したのは1838年。そして1841年には、スーツ姿で初めて銀板写真に写った。スーツもある種の制服であり、米国人全般が持っていた「元奴隷」というダグラス像を根本から書き換えた。それは奴隷制度そのものも書き換えるものだった。 私のダンディズムも、この基盤となる物語の書き換えである。それにはうんざりし、しばしばもどかしさを感じてきた。ダンディとしての私の人生は、私たちが絶えず掘り返さなければならない歴史、すなわち私たちの先祖に対して与えられた苦しみに抗うものでなければならない。 にもかかわらず、私の服装や派手な身なりを、まるで私が先人たちを侮辱しているかのように見る人もいる。それこそ私が誇らしげに出入りする建物を、苦労して建てた先人たちに。ダグラスの銀板写真を見ると、その口もとはうっすらと微笑んでいるようにも見える。彼が残したW・E・B・デュボイスの洗濯代の領収書を見て、何着ものスーツが列記されていることに気づく。そのとき、私は使い古された「私は祖先たちの見果てぬ夢の先にいる」というフレーズを思う。そして夢の先ではなく、彼らも生きた、ひと続きの現実を生きていることを思い出すのだ。 2019年に参加した初めてのMETガラを思い出すと、「見せつけるのが当たり前、俺みたいになってみろ」というヤング・ジョックのラップが頭の中で流れる。その年のテーマは「キャンプ」で、私はグッチのピンクのスーツを着て長く伸ばした小指の爪に宝石をちりばめていた。私の脳裏には、真夜中に叔父の目を欺いてケーブルテレビのBETを見ていたときに画面に登場したヒモ男たちが浮かんでいた。METガラに参加した理由は、前年に上演された自作『Slave Play(原題)』がその年の秋にブロードウェイで開幕する予定だったからだ。 当時、私はダンディであろうとは思っていなかったが、ダンディだったことは確かだ。深夜のテレビ番組がつくりあげたネガティブなステレオタイプから逃げずに、むしろ真っ向からそれに挑んだのだから(これは私が考えるダンディのイメージを揺るがすものだったが、今ではそれが面白いと感じている)。フッドバイエアーが「腰パン」を打ち出したシーズンを思い出す。このスタイルは刑務所に行くような黒人男性の仲間に思われるから真似しないように、と忠告されていたものだ。 ニューヨークのキャナル・ストリートの路面店で偽物ブランドを売る業者を、イタリアの熟練した職人たちと対等に扱ったテルファーのことも思い出す。これもある種のダンディズムであり、「見せつけるのが当たり前」「俺らみたいにやってみろよ」という挑発的な姿勢の表れだ。こうしたブランドが歴史の束縛から解放されているのは、今のスリリングに生きているからだ。 ブラック・ダンディが意味するもの ほかのブラック・ダンディたちや、彼らが語る物語はどうだろう。そこには私を形成した物語とは相いれないものがあり、植民地主義や奴隷制からの影響を、私のそれとは異なる形で受けている。ガーナのダンディたちが身に纏うテキスタイルについて考えると、彼らはサヴィル・ロウと自分たちの両親や祖父母のスタイルの両方をからかっているように見える。ディアスポラのブラック・ダンディたちの多くが、米国の黒人のスタイルをリミックスし、茶化していることを思い出す。 なぜなら、私たちの文化はアメリカ帝国が植民地支配的に輸出するものの中で最も成功したもののひとつだからだ。このことが、アメリカのブラック・ダンディをどこか奇妙な父権的立場に置いている。新しいグローバル社会では、新しい物語が書き記されているそれを考えると、静かな喜びを感じずにいられない。 「坊や、格好良いね!」。私は今でもこの言葉を思い出す。自分がどのようにしてブラック・ダンディになったのか、またブラック・ダンディが自分にとって何を意味するのか、今もまだ思い悩んでいる。私は母親が大好きで、いつも母親を喜ばせたいと思っていた。私の髪をとかしてくれたことで、母は私にダンディズムという着飾ることの喜びを教えてくれた。私にぴったりの最高のスーツと、すてきなネクタイを私のために用意してくれた。彼女は身長が180センチを超える長身の女性ばかりの一族の出身で、私に背筋を伸ばして堂々と歩け、男でも女でも周りの視線を恐れるなと教えてくれた。 だから、私にとってブラック・ダンディとは、自分は恥ずべきことはなく、愛されている存在であるということを装いで表すことだ。恥という意識は、のびのびとした快活さを奪う。恥は恐怖から生じ、そして恐怖は自分のスタイルを貫くうえで大敵なのだ。 Styled by Law Roach Hair: Sondrea “Dre” Demry-Sanders Makeup: Keita Moore Grooming: Camille Ariane and Alex Keating Barbers: Don Brown and Kyle Smith Talents and Models: Aaron Pierre, Achol Ayor, Adut Akech, Agel Akol, A’ja Wilson, Ajus Samuel, Akeem Ali, Alton Mason, Anok Yai, Ayo Edebiri, Danielle Deadwyler, Dapper Dan, Daryl Dismond, Ferrari Sheppard, Grace Wales Bonner, Honor Titus, Imaan Hammam, Janelle Monáe, Janicza Bravo, Jeremy Pope, Jerry Lorenzo, Jon Batiste, Jordan Casteel, Julez Smith, Justin Jefferson, Keith Powers, LaKeith Stanfield, Law Roach, Lana Turner, Layla Etengan, Laura Reyes, Myha’la, Naomi Ackie, Noah Lyles, Rashid Johnson, Rejoice Chuol, Spike Lee, Teyana Taylor, Tyshawn Jones, Tyson Beckford, Victoria Fawole, Yar Aguer, Yara Shahidi and Yseult Produced by Rosco Production Set Design: Julia Wagner Manicurist: Dawn Sterling Tailors: Carol Ai at Carol Ai Studio Tailors, Daniella at R-Zee Tailoring, Da Shoné by DaSh, Matthew Reisman, Tae Yoshida and Travis Thi
モードの祭典 Metガラ / Met Gala サンローラン / Saint Laurent クリストファー・ジョン・ロジャーズ / Christopher John Rogers デヴィッド ヤーマン / David Yurman ドルチェ&ガッバーナ / Dolce&Gabbana トム フォード / Tom Ford シャネル / Chanel バルマン / Balmain デビアス / De Beers ステラ マッカートニー / Stella Mccartney ダンヒル / Dunhill ロレックス / Rolex クリスチャン ルブタン / Christian Louboutin ブルガリ / Bvlgari ヴァレンティノ / Valentino グッチ / Gucci カルティエ / Cartier ボッテガ・ヴェネタ / Bottega Veneta ウィリー チャバリア / Willy Chavarria オーデマ ピゲ / Audemars Piguet グラフ / Graff ルイ・ヴィトン / Louis Vuitton ティファニー / Tiffany & Co. マルニ / Marni ジミー チュウ / Jimmy Choo セリーヌ / Celine メゾン マルジェラ / Maison Margiela エムエム6 メゾン マルジェラ / Mm6 Maison Margiela トム ブラウン / Thom Browne マリーン・セル / Marine Serre ラルフローレン / Ralph Lauren アミリ / Amiri ザ・ダンディ / The Dandy
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