【編集Gのサブカル本棚】第23回 作品への期待と満足度のジレンマ アニメ anime SLAMDUNKMOVIE ゆるキャン wataten
仕事関係の会合などで初対面の人と話すとき、お勧めのアニメ作品を聞かれることがたまにある。「映画.com」編集長で筆者の勤務先の社長である駒井尚文氏は、映画で同じ質問をされたとき、ふだん映画を見ない人には1~3月に公開される作品を見るといいですよと勧めるそうだ。その時期に毎年3月開催の米アカデミー賞にあわせた有力候補作品が多く公開されるからで、国内作品や公開済みの作品でも「ドライブ・マイ・カー」ぐらいの注目作になれば再上映が行われる。メディアの人間ならではの回答で、初めて聞いたときに筆者もなるほどと思った。アニメでこういう答え方ができればと思うが今のところ良い案がなく、その人の好みを聞いて似た傾向の作品を挙げるコンシェルジュ的な答えに落ち着く。筆者は大学の頃から20年以上、劇場で見た映画のタイトルと鑑賞日、満足度(映画に点数をつけたくはないので、あくまで自分の中の満足度)をメモしている。10点満点で平均は7点、全体の8割近くが7点で特に良いと感じたものだけ8点か9点(10点はつけたことがない)、かなりガッカリしたら6点以下という基準。本当は鑑賞日記をつけたいところだが、これぐらいの要素だから無精な自分でもなんとか続けてこられて、人に勧めるときは8点以上の作品を挙げることが多い。 このメモを続けてきて、作品への期待が高いかどうかが満足度に大きく影響していることにあるとき気づいた。期待が高ければ高いほど大概のことでは満足できなくなって(ごくまれに高い期待を大きく上回る物凄い作品もある)、逆にそれほど期待していなかった映画が予想外に良かったら8点か9点をつけたくなる。満足するためには過度に期待しないのが一番なのだ。けれど、期待していなかったらそもそも劇場に足を運んでいないわけで、このジレンマの解決策は見つかっていない。 星野リゾート社長の星野佳路氏が、宿泊者の満足度が低くなるのは価格とのミスマッチが起きているからだという趣旨の発言をしていたことがある。たしかに一泊3万円を超える宿で気に障ることがあれば満足度は下がるだろうし、一泊3000円のビジネスホテルで少々のことがあっても文句を言う人は少ないだろう。これはたぶん外食も同じで、激安グルメが人気なのは価格が安いのにこんなに美味しいというギャップが満足度を引き上げている。 筆者は大学の後輩曰くスープがほぼお湯のタンメンをうまいうまいと食べているような人間で、外食してまずいと思ったことは一度もないが、高いなと感じたことはある。映画の場合は基本的に料金は均一で、テレビアニメにいたっては無料で見られるので簡単に比べられないが、外食して高かったという感覚は映画の満足度が6点以下だったときに近い。それぐらいあまりないことで、基本的に世に出された作品は一定以上の面白さが担保されているのだと思う。気のおけない人との会話では、面白い作品はもちろんのこと面白くなかったと感じた作品の感想もなるたけ率直に言うようにしている。自分も相手からハッキリとした感想を聞きたいからだ。仮に好きな作品がけなされても自分は「そうか、この面白さが分からないか……」と嬉しくなってしまうほうだし、人と話すと作品には本当に色々な見方があるのだなと分かってそれ自体がひとつの楽しみになる。他人の感想を聞くことは究極のところ、作品を媒介にしてその人自身を知ることに繋がっているのだと思っている。 プロアマ問わず映画やアニメの感想、レビューを読むのも好きなほうで、そのおかげで自分のアンテナにはなかったタイトルに出合えることが多い。個人的な好みとしてはある程度好みがハッキリしていて、自分の言葉で評している人のほうが参考になる。自分が良いと思った作品に批判的な感想でもそれはそれで興味深いし、むしろ筆者の味覚のようになんでも面白いと言っているような人のほうが参考にならない。特にそれが作品に近しい人だった場合はポジショントークなのではないかと勘繰ってしまうときもある。 言葉の定義は人それぞれだが、自分の感覚では「傑作」は数年に一回使うかどうかぐらい重みがある言葉で、書き言葉として「面白い」と評するのも一定のハードルがある。この人が勧めるのだったら見てみようと思える人にはそうした基準があって、色々な事情があるであろうなかでも自分に嘘をつかず作品に真摯に向き合っていると感じられる。 SNSにありがちなインスタントで強い言葉はその対極にあって、作品を評するところからはもっとも遠いところにあるような気がしてならない。もともとは人に伝えたい、だからバズらせたいという純粋な思いから始まっているはずだが内実の伴わないソリッドな言葉だけが独り歩きして、褒めるときはひたすら過剰に、この作品は叩いてOKという空気になったら大喜利状態で面白おかしくあげつらう。自分自身そういうものを読んで楽しんでしまうこともわりとあるので偉そうなことは言えないが、糸井重里氏が10年以上前に自身のTwitterでつぶやいた以下の言葉は読み手としても書き手もしても肝に銘じておきたいものだと常々思っている。 ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。.
仕事関係の会合などで初対面の人と話すとき、お勧めのアニメ作品を聞かれることがたまにある。「映画.com」編集長で筆者の勤務先の社長である駒井尚文氏は、映画で同じ質問をされたとき、ふだん映画を見ない人には1~3月に公開される作品を見るといいですよと勧めるそうだ。その時期に毎年3月開催の米アカデミー賞にあわせた有力候補作品が多く公開されるからで、国内作品や公開済みの作品でも「ドライブ・マイ・カー」ぐらいの注目作になれば再上映が行われる。メディアの人間ならではの回答で、初めて聞いたときに筆者もなるほどと思った。アニメでこういう答え方ができればと思うが今のところ良い案がなく、その人の好みを聞いて似た傾向の作品を挙げるコンシェルジュ的な答えに落ち着く。筆者は大学の頃から20年以上、劇場で見た映画のタイトルと鑑賞日、満足度(映画に点数をつけたくはないので、あくまで自分の中の満足度)をメモしている。10点満点で平均は7点、全体の8割近くが7点で特に良いと感じたものだけ8点か9点(10点はつけたことがない)、かなりガッカリしたら6点以下という基準。本当は鑑賞日記をつけたいところだが、これぐらいの要素だから無精な自分でもなんとか続けてこられて、人に勧めるときは8点以上の作品を挙げることが多い。 このメモを続けてきて、作品への期待が高いかどうかが満足度に大きく影響していることにあるとき気づいた。期待が高ければ高いほど大概のことでは満足できなくなって(ごくまれに高い期待を大きく上回る物凄い作品もある)、逆にそれほど期待していなかった映画が予想外に良かったら8点か9点をつけたくなる。満足するためには過度に期待しないのが一番なのだ。けれど、期待していなかったらそもそも劇場に足を運んでいないわけで、このジレンマの解決策は見つかっていない。 星野リゾート社長の星野佳路氏が、宿泊者の満足度が低くなるのは価格とのミスマッチが起きているからだという趣旨の発言をしていたことがある。たしかに一泊3万円を超える宿で気に障ることがあれば満足度は下がるだろうし、一泊3000円のビジネスホテルで少々のことがあっても文句を言う人は少ないだろう。これはたぶん外食も同じで、激安グルメが人気なのは価格が安いのにこんなに美味しいというギャップが満足度を引き上げている。 筆者は大学の後輩曰くスープがほぼお湯のタンメンをうまいうまいと食べているような人間で、外食してまずいと思ったことは一度もないが、高いなと感じたことはある。映画の場合は基本的に料金は均一で、テレビアニメにいたっては無料で見られるので簡単に比べられないが、外食して高かったという感覚は映画の満足度が6点以下だったときに近い。それぐらいあまりないことで、基本的に世に出された作品は一定以上の面白さが担保されているのだと思う。気のおけない人との会話では、面白い作品はもちろんのこと面白くなかったと感じた作品の感想もなるたけ率直に言うようにしている。自分も相手からハッキリとした感想を聞きたいからだ。仮に好きな作品がけなされても自分は「そうか、この面白さが分からないか……」と嬉しくなってしまうほうだし、人と話すと作品には本当に色々な見方があるのだなと分かってそれ自体がひとつの楽しみになる。他人の感想を聞くことは究極のところ、作品を媒介にしてその人自身を知ることに繋がっているのだと思っている。 プロアマ問わず映画やアニメの感想、レビューを読むのも好きなほうで、そのおかげで自分のアンテナにはなかったタイトルに出合えることが多い。個人的な好みとしてはある程度好みがハッキリしていて、自分の言葉で評している人のほうが参考になる。自分が良いと思った作品に批判的な感想でもそれはそれで興味深いし、むしろ筆者の味覚のようになんでも面白いと言っているような人のほうが参考にならない。特にそれが作品に近しい人だった場合はポジショントークなのではないかと勘繰ってしまうときもある。 言葉の定義は人それぞれだが、自分の感覚では「傑作」は数年に一回使うかどうかぐらい重みがある言葉で、書き言葉として「面白い」と評するのも一定のハードルがある。この人が勧めるのだったら見てみようと思える人にはそうした基準があって、色々な事情があるであろうなかでも自分に嘘をつかず作品に真摯に向き合っていると感じられる。 SNSにありがちなインスタントで強い言葉はその対極にあって、作品を評するところからはもっとも遠いところにあるような気がしてならない。もともとは人に伝えたい、だからバズらせたいという純粋な思いから始まっているはずだが内実の伴わないソリッドな言葉だけが独り歩きして、褒めるときはひたすら過剰に、この作品は叩いてOKという空気になったら大喜利状態で面白おかしくあげつらう。自分自身そういうものを読んで楽しんでしまうこともわりとあるので偉そうなことは言えないが、糸井重里氏が10年以上前に自身のTwitterでつぶやいた以下の言葉は読み手としても書き手もしても肝に銘じておきたいものだと常々思っている。 ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。
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