イスラム原理主義組織ハマスの大規模テロを受け、イスラエル軍が近く、全面的な地上侵攻や大規模攻撃に踏み切るとの観測が強まっている。情勢が緊迫するなか、伝統的に…
イスラム原理主義組織ハマスの大規模テロを受け、イスラエル軍が近く、全面的な地上侵攻や大規模攻撃に踏み切るとの観測が強まっている。情勢が緊迫するなか、伝統的に中東各国と良好な関係を築いてきた日本はいまだに、「外交力」を発揮できないでいる。 邦人の安全確保に向けた岸田文雄政権の初動対応が遅かったと指摘されている。テロが7日に発生した後、首相官邸の危機管理センターに「情報連絡室」が設置されたのは10日で、外務省がガザ地区と境界周辺の危険レベルを、最高度のレベル4(退避勧告)に引き上げたのも10日だった。G7(先進7カ国)議長である岸田首相も、「テロとの闘い」で声明に加わり団結して強く非難すべきだったのではないか。そのうえで、日本だからこそできる「独自外交」「バランス外交」で指導力を発揮すべきだと思うのだ。パレスチナ和平については、小泉純一郎首相(当時)が2006年に提唱した、日本、ヨルダン、イスラエル、パレスチナの4者による「平和と繁栄の回廊」構想を主導してきた。アルジェリア人質事件(13年)が起きた際、安倍氏は外遊先の東南アジアから関係諸国に電話をして〝極秘情報〟を収集し、日本に対応を指示した。核合意をめぐってドナルド・トランプ米政権とイランの緊張が高まっていた19年には、イランを訪問して両国の「仲介役」まで果たした。米国は今回の大規模テロ発生後、イスラエルへの協力姿勢を強め、原子力空母「ジェラルド・フォード」を中核とする空母打撃群を東地中海に派遣するなど、軍事的支援を中東に向けている。そのぶん、ロシアによる侵略が続くウクライナへの支援や、台湾に圧力をかけ続けている中国への抑止力が手薄になる恐れがある。 原油を中東に依存しているという経済的側面を考えても、日本は今回の事態で「バランサー」として役割を果たすべきだろう。安倍氏は在任中、イスラエルとパレスチナ双方を訪問し、ジェリコ農産加工団地などパレスチナを支援することで平和的共存を主張した。 岸田首相は、イスラエルとパレスチナに限らず、サウジアラビアやイラン、エジプト、トルコなどと連携して、情報収集や解決に向けた働きかけに注力すべきだろう。中東で特定の国に偏らない外交を展開できるのは日本の強みである。これまでの歴代首相の「外交資産」を活用した日本独自の外交を展開すべき時だ。ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。昨年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。.
イスラム原理主義組織ハマスの大規模テロを受け、イスラエル軍が近く、全面的な地上侵攻や大規模攻撃に踏み切るとの観測が強まっている。情勢が緊迫するなか、伝統的に中東各国と良好な関係を築いてきた日本はいまだに、「外交力」を発揮できないでいる。 邦人の安全確保に向けた岸田文雄政権の初動対応が遅かったと指摘されている。テロが7日に発生した後、首相官邸の危機管理センターに「情報連絡室」が設置されたのは10日で、外務省がガザ地区と境界周辺の危険レベルを、最高度のレベル4(退避勧告)に引き上げたのも10日だった。G7(先進7カ国)議長である岸田首相も、「テロとの闘い」で声明に加わり団結して強く非難すべきだったのではないか。そのうえで、日本だからこそできる「独自外交」「バランス外交」で指導力を発揮すべきだと思うのだ。パレスチナ和平については、小泉純一郎首相(当時)が2006年に提唱した、日本、ヨルダン、イスラエル、パレスチナの4者による「平和と繁栄の回廊」構想を主導してきた。アルジェリア人質事件(13年)が起きた際、安倍氏は外遊先の東南アジアから関係諸国に電話をして〝極秘情報〟を収集し、日本に対応を指示した。核合意をめぐってドナルド・トランプ米政権とイランの緊張が高まっていた19年には、イランを訪問して両国の「仲介役」まで果たした。米国は今回の大規模テロ発生後、イスラエルへの協力姿勢を強め、原子力空母「ジェラルド・フォード」を中核とする空母打撃群を東地中海に派遣するなど、軍事的支援を中東に向けている。そのぶん、ロシアによる侵略が続くウクライナへの支援や、台湾に圧力をかけ続けている中国への抑止力が手薄になる恐れがある。 原油を中東に依存しているという経済的側面を考えても、日本は今回の事態で「バランサー」として役割を果たすべきだろう。安倍氏は在任中、イスラエルとパレスチナ双方を訪問し、ジェリコ農産加工団地などパレスチナを支援することで平和的共存を主張した。 岸田首相は、イスラエルとパレスチナに限らず、サウジアラビアやイラン、エジプト、トルコなどと連携して、情報収集や解決に向けた働きかけに注力すべきだろう。中東で特定の国に偏らない外交を展開できるのは日本の強みである。これまでの歴代首相の「外交資産」を活用した日本独自の外交を展開すべき時だ。ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。昨年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。
